研究概要 |
(1)分析に用いる道徳のジレンマの種類の拡張,(2)他の推論課題や心理学的概念との関連の検討,の2点を検討し,Nakamura (2011)の知見をより詳細に検討することを目的としていた.この目的のため,道徳のジレンマ,推論課題,及び個人差尺度を提示し,回答結果を多変量解析によって分析した.提示するジレンマは,Nakamura (2011)の分析結果から因子負荷の高いものを抽出すると同時に,関連する研究(e. g., Mikhail, 2009; Waldmann & Dieterich, 2007)や哲学的著作(Cohen, 2007)から収集した.結果はまだ分析中であるが,Nakamura (2011)の知見を再現し,合理的プロセスと感情的プロセスを表す因子で多くのジレンマ課題の成績を説明可能であると考えられる.また,同時にNakamura (2011)の内容を査読論文化する努力を行い,2013年5月に国際誌「Thinking and Reasoning」に公刊した.また,平成25年度の研究目的である「ジレンマの功利的側面の検討」にも着手し,検討を重ねた.その結果,これまで義務論的思考を反映すると考えられていた歩道橋のジレンマの方が功利主義的思考を強く反映することが明らかになり,この知見は国際会議で発表され,注目を集めた(Nakamura, 2012).この研究成果も目下国際的学術雑誌に公刊すべく鋭意執筆中である.加えて道徳性の新たな局面を探るべく,社会的割引(Social discounting; Jones & Rachlin, 2006)という現象に対する検討にも着手し,国際会議にて発表予定である(Nakamura, 2013 at Cognitive Science Society).
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成24年度の目標は,道徳のジレンマ,推論課題,及び個人差尺度を提示し,回答結果を多変量解析によって分析することであった.提示するジレンマは,Nakamura (2011)の分析結果から因子負荷の高いものを抽出すると同時に,関連する研究(e.g., Mikhail, 2009; Waldmann & Dieterich, 2007)や哲学的著作(Cohen, 2007)から収集した.推論課題は論理的(e. g., Wason, 1966)・確率的推論(e. g., Kahneman & Tversky, 1984)課題,個人差尺度は合理/直観性尺度(Epstein & Denis-Raaji, 1994),数的処理能力(Numeracy; Lipkus, Samsa & Rimer, 2001)等を予定していた.分析では,因子分析等を用いて道徳のジレンマを説明する因子数・内容を検討し,特に,Nakamura (2011)で確認された4因子が再現されるかどうかを吟味し,因子数を確定させた後,因子間の関係を共分散構造分析によって検討することを目指した. 平成24年度の実績をまとめると,該当年度の課題については分析の余地をまだ残しているものの概ね達成しており,加えて平成25年度の課題であったジレンマの功利的側面にある程度踏み込めたものとなっており,当初の目標より進展しているものと結論できる.また,かねてから着手していた研究を査読論文として公刊できたため,本研究の意義も内外に対してアピールする土台も出来上がったことと考えられるだろう。現時点で未完了な問題はジレンマの構造分析であり,この部分は25年度に早急に達成する必要がある.しかし分析に時間がかかる点は当初の計画で織り込み済みであるため,大きな遅れとはなっていないものと考えることができる.
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