研究課題/領域番号 |
24730514
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 大正大学 |
研究代表者 |
谷田 林士 大正大学, 人間学部, 講師 (50534583)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 共感性 / 行動予測 / 感情 / 表情筋 |
研究概要 |
本研究の目的は,情動的共感性を用いた行動予測プロセス,すなわち他者の感情を自己の内部にシミュレートし,その感情から導かれる自身の行動を相手に投射するという予測プロセスを実証することにある。平成24年度には,他者の置かれた状況に身をおくことで生起する感情のシュミレーションによって正確な予測が可能となる実験状況を設定し,予測時の感情の変化を表情筋のEMG(筋電位)等の生理指標を用いて検討することを目的とした対人課題の実験を行った。EMGや皮膚コンダクタンス反応(SCR)や指尖容積脈波(BVP)等の生理指標を測定するために,平成24年度の主要な物品として生体信号計測装置を購入した。平成24年度の研究実績としては,まず生体信号計測装置を用いた感情シュミレーション実証の実験を実施したことである。このプロセスの原始的形態だと考えられる表情伝染に注目し,他者の感情を示す表情筋の変化を模倣するかどうかを検討する実験を実施した。表情伝染に関するこれまでの先行研究では,その対象がモーフィングを用いた動画等であることが多いが,本実験ではその対象を人とすることで,より感情シュミレーションを行うことに意味がある状況を設定した。実験では,対象人物が楽しい話や怒り話を語り,参加者はその時の大頬骨筋及び皺眉筋が測定された。大頬骨筋は喜びの感情の際に,皺眉筋は怒りの感情の際に動く表情筋として知られており,これらのEMGを測定することで他者の表情筋の動きを模倣しているかを調べた。実験の結果,相手が怒りの話をしている時も,楽しい話をしている時も皺眉筋の変化が見られた。ただし,大頬骨筋の生起が生じなかったことから,精度の高い測定を行うことが課題であると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は,注視や表情筋電位などの複数の生理指標を同時に測定しながら,友人を対象とした行動予測課題を実施する心理学実験を行い,感情のシュミレート・プロセスを実証することを目的としている。平成24年度の研究目的及び計画では,相手の行動を予測する際の生体信号を計測し,他者の状況に身を置くことで生起する感情を用いて他者の行動を予測しているかどうかを検証することにあった。表情伝染に関する先行研究では,エクマンらが作成した基本感情の刺激をPC上で提示することが多く,静止画よりも動画提示のほうが自動的な表情伝染が生じやすいとされてきたが,本実験では,対人場面において表情伝染が生じるかどうかを検討しており,その点が研究の独自性を高めている点と考えられる。表情伝染が生じるかどうかを検討する実験を実施したこと,及び分析の結果,怒りを示す皺眉筋においては表情伝染が確認されていることから,平成24年度の目的は概ね達成されたと判断した。ただし,喜びを示す大頬骨筋の表情伝染が生起しておらず,また測定環境も交流ノイズを完全に除去しきれていない等の改善すべき点があることから,これらの点を早急に対策することが来年度の課題となっている。また,今年度の計画では,上記の実験に加え,既知の相手を対象としたジレンマゲーム選択実験を実施する予定であったが,実験実施が平成25年度に延期された。この実験状況は,普段から相互作用を繰り返す相手を対象とするため,交換内の認知が働きやすく,感情シュミレートを用いた行動予測も投射しやすい状況と考えられるため,早急に実験を実施することが重要だと考える。
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今後の研究の推進方策 |
平成25年度では,キッセイコムティック社製の眼球運動・生体信号統合解析システムを導入し,対人場面における表情伝染実験を実施する予定である。眼球運動測定に関しては,モバイル型アイマークレコーダーを使用する。眼球運動およびEMGが計測される参加者は,相手が語る幸福(怒り)話を聞き,対象者が感情を想起する話を語っている際に,大頬骨筋や皺眉筋などの情動経験と深くつながりのある表情筋が活発となり,聞き手である対象者がその変化を注視しているかを眼球運動測定装置で確かめ,さらに変化直後に表情伝染が生じているかどうかを対象者の表情筋を測定することで検討する。併せてSCRやBMPの生理指標と事後質問紙において共感性尺度を測定し,EMGの結果から示唆される表情伝染および感情シュミレーションの程度と他者志向性情動反応や行動予測の正確さとの関連性を検討する。本研究では,友人を直面した状況で表情筋を計測するため,より自然で自動的な表情伝染が多く測定されると考えている。先行研究で対人場面が用いられなかった理由は,刺激の統制が困難となるからであるが,本研究では,モバイル型の眼球運動測定装置と生体信号計測を用いて,注視とEMGの同時測定と2つのデータの同期化を行うことでその問題を解決し,対人場面での感情シュミレーション過程を推定する。この新たな研究手法の導入は,研究の独自性を高めるだけでなく,行動予測の心理基盤を明らかにできる点で結果やインプリケーションの学際性も高めることとなる。
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次年度の研究費の使用計画 |
該当なし
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