研究課題/領域番号 |
24730514
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研究機関 | 大正大学 |
研究代表者 |
谷田 林士 大正大学, 人間学部, 講師 (50534583)
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キーワード | 共感性 / 情動伝染 / 表情筋 |
研究概要 |
本研究の目的は、情動的共感性を用いた行動予測プロセス、すなわち他者の感情を自己の内部にシミュレートし、その感情から導かれる自身の行動を相手に投射するという予測プロセスを実証することにある。平成25年度には、キッセイコムティック社製の眼球運動・生体信号統合解析システムを導入し、対人場面における表情伝染実験を実施および、その測定データの解析を行った。表情伝染の生起を実証する実験において、実験参加者は眼球運動が測定され、直面する相手が感情を想起する話(幸せおよび怒り)を語っている際の大頬骨筋や皺眉筋などの情動経験と深くつながりのある表情筋の活性に対して注視しているかどうかが確認された。併せて実験では同時に表情筋(EMG)が測定されており、相手の表情筋変化直後に参加者自身の表情筋が同期して活性化したかどうかが検討された。実験の結果、視線の注視に関しては、相手の活性化した表情筋への注目ではなく、目に対する注視が多い参加者ほど自身の表情伝染傾向が強くなることが示された。さらに心理尺度で測定される情動的共感性が高い参加者ほど目に対する注視と表情伝染傾向が強かった。目に対する注視と表情伝染・情動伝染の関連についての追試実験を行い、結果の頑健性を検討することが急務であると考えられる。このように平成25年度は、感情シミュレーション・プロセスの原始的形態だと考えられる表情伝染に注目し、他者の感情を示す表情筋の変化を模倣するかどうかを検討する実験を実施し、感情を推測する際の相手の目に対する注視の重要性を認識した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、注視や表情筋電位などの複数の生理指標を同時に測定しながら、友人を対象とした行動予測課題を実施する心理学実験を行い、感情のシミュレート・プロセスを実証することを目的としている。平成25年度の研究目的及び計画では、キッセイコムティック社製の眼球運動・生体信号統合解析システムを導入し、感情シミュレーションの原始的形態だと考えられる表情伝染の実証研究を実施した。その結果、表情伝染が生じる直前に、相手の活性化した表情筋への注視が見られないということが明らかとなった。これまでの情動伝染研究では、参加者の表情筋のみの測定であったため、これらの関係を検討することができなかったが、眼球運動データとの同期によってこの分析が可能となった。ただし、実験結果は、相手の目に対する注視が表情伝染プロセスと関連していることを示唆しており、今後のさらなるデータの収集が急務であると考えている。これらの実験結果に関する妥当性を検討するため、学会でこの結果を報告し、関連する研究者との議論を行った。そのために平成25年度には、研究費の前倒し請求を行い、実験費用および学会発表の旅費に使用した。一方、平成24年度の問題点に生理指標の測定環境の改善を挙げていたが、平成25年度には交流ノイズなどの改善は図られたものの、完全ではなかった。しかし平成26年4月に電磁波を遮断するシールドルームが所属大学の実験室に新設された。今後、表情筋の測定をシールドルーム内で行うため測定精度の高い実験が可能となり、測定環境の問題は解決したといえる。
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今後の研究の推進方策 |
平成26年度の推進方策として、キッセイコムティック社製の眼球運動・生体信号統合解析システムを用いた対人場面における表情伝染実験を繰り返し実施する予定である。本研究で用いる眼球運動測定装置および生体信号測定装置はモバイル型であり、実験室外での使用が可能である。そこで、実験の対象を所属大学の大学生のみに限定するのではなく、対人援助職の社会人やその養成校の学生などを実験対象者とし、大学実験室以外で実験を実施することによって、結果の一般性を高めていくことを今後の方策とする予定である。さらにこれまでの生体指標の分析では表情筋(EMG)を主要な指標として分析を行ってきたが、今後の研究では、併せて皮膚コンダクタンス反応(SCR)や指尖容積脈波(BVP)等の生理指標の解析も進め、多様な信号から感情シミュレーション・プロセスの実証を検討していく予定である。申請時では平成26年度の予定として、臨床的応用を掲げてきたが、対人援助職においても特に社会福祉士を対象とした実験を実施する予定である。実験内容は眼球運動と生体信号の同時計測実験である。通常はシミュレーション・プロセスが作動しにくい一般的な相手に対して、専門家はどのようなプロセスを用いているかに関して探索的な検討を行う。長野大学の実習助教の森田靖子氏に研究の協力を仰ぎ、申請者も会員である専門職団体(社会福祉士会)で実験協力者を募ることを予定している。
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