研究実績の概要 |
平成27年度は、平成26年度の後半に実施した実験室実験のデータ分析を実施した。外集団に対する特定のステレオタイプが内集団成員によって共有されていることを認識すると、人は、ステレオタイプに不一致な情報に比べて一致する情報を用いて伝達をするという先行研究の知見 (Lyons & Kashima, 2003) を再現することを目的として実験を実施した。また、伝達に用いられる言語表現の抽象度の変化ついても検証を行った。実験では最初に、参加者の所属する大学において、近隣のある大学に対して好意的または非好意的なイメージが共有されていることを表す情報を提示した。その後、近隣大学に所属するある男子学生の一日の行動文を呈示した。その中には、社会的に望ましい行動を表す文と望ましくない行動を表す文が同数含まれており、いずれも具体的な行動を表す言語表現で記述されていた。この文章を3名1組のグループ内で伝言ゲームのように伝えていく手続きをとった。参加者の記述した文章の内容をステレオタイプ関連情報の量と質の両方に関して、複数名のコーダーが分類を行った。コーディングの結果、近隣大学に対して非好意的なイメージが共有されているという情報を受け取った参加者群においてのみ、望ましい行動文より望ましくない行動文が多く伝達されていることが明らかになった。これは、先行研究の知見と一致する結果であった。その一方で、言語表現上では、望ましくない行動文に比べ、望ましい行動文の方がより抽象度の高い言語表現で記述されていた。これは、一見相反する結果に見えるが、集合レベルでのステレオタイプ情報の維持に関して、情報の量と質が異なる役割を担っている可能性を示唆したと言える。
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