研究課題/領域番号 |
24730520
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 椙山女学園大学 |
研究代表者 |
加藤 容子 椙山女学園大学, 人間関係学部, 准教授 (80362218)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | ワーク・ファミリー・ファシリテーション / ワーク・ファミリー・コンフリクト |
研究概要 |
本年度は仕事と家庭の両立生活におけるポジティブな側面を測定する尺度の開発に着手した。まず先行研究を検討したところ,仕事と家庭の相互のポジティブな影響を表す概念として,enhancement,enrichment,positive spill over,facilitationの4つが抽出された。これらの定義や構成概念を詳細に検討し,facilitationを採用することとした。 次にワーク・ファミリー・ファシリテーションの定義を「一方の役割での経験が,他方の役割での遂行を容易にさせたり充実させたりするもの」と設定した。測定尺度について先行研究を概観したところ,尺度項目が4項目以下と少ないこと,構成概念が整理されておらず研究によって異なっていることが大きな問題として挙げられた。 そこでこれらの問題を解決するために,ワーク・ファミリー・コンフリクトの3つの基底要因を援用して,「時間ベース」「エネルギーベース」「行動ベース」の3つの経験を設定した。さらにコンフリクト尺度と同様に,家庭から仕事への影響と仕事から家庭への影響の2方向を設定した。定義に基づき各種類を3項目ずつ作成して,合計18項目のワーク・ファミリー・ファシリテーション尺度を作成し,調査を実施した。 本年度の成果としては,第1に我が国ではまだ概念の提示がなされず,欧米においても概念の整理がされていない,仕事と家庭の両立生活におけるポジティブな側面について,多数の資料を収集・整理することで検討できたことが挙げられる。この成果については,調査結果を含めて論文として報告する予定である。第2には,それに基づいてワーク・ファミリー・ファシリテーションの定義と測定尺度を設定することができたことである。これにより,ワーク・ライフ・バランスを求める社会に対して,実証データを提出する準備ができたという点で,重要な意義があったと考える。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成24年度には,ワーク・ファミリー・ファシリテーション尺度について,英文の先行研究を和文に翻訳した上で,尺度構成のための調査を共働き成人男女各100名に実行することを目的としていた。 しかし先行研究を収集し内容を検討する中で,海外の研究におけるワーク・ファミリー・ファシリテーション尺度の多くに,項目数の少なさや構成概念の不明瞭さといった問題が見出された(Wayne, et al., 2004など)。またvan Steenbergen et al. (2007)では構成概念を整理して尺度作成をしているが,定義に基づくあまりに実生活になじみにくい項目であると考えられた。したがって和文翻訳して使用するのに適切な既存の尺度はないと判断し,それらの先行研究を参考にしながら,独自に尺度を作成することとした。 尺度構成としては,3(時間ベース,エネルギーベース,行動ベース)×2(家庭→仕事,仕事→家庭)の6つの下位概念を設定し,それぞれ3つの項目を作成して合計18項目とした。項目内容については,他の心理学研究者8名によって内容的妥当性の検討がなされた。これに加えてワーク・ファミリー・コンフリクト18項目,仕事満足感3項目,結婚満足感3項目,子育て満足感3項目,仕事うつ傾向6項目,家庭うつ傾向5項目,属性14項目から成る質問紙を作成し,調査会社((株)インテージリサーチ)に依託してWeb調査を実施した。対象者は予定通り,フルタイムの共働き成人男女各100名であった。 以上の通り,英文尺度の和文翻訳という予定から和文尺度を独自に作成するという変更があったものの,我が国におけるワーク・ファミリー・コンフリクト尺度の作成と内容的妥当性の検討,信頼性と構成概念妥当性検討のための調査の実施という主要な目的については,当初の予定どおり達成することができたと考える。
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今後の研究の推進方策 |
平成25年度は,まずワーク・ファミリー・ファシリテーション尺度の構成について,成果を国内の学会で発表する。 次に,作成したワーク・ファミリー・ファシリテーションに加えて,ワーク・ファミリー・コンフリクト,仕事領域の要因(仕事ストレッサー,サポート,職場内関係性),家庭領域の要因(家庭ストレッサー,サポート,夫婦の関係性),ワーク・ファミリー・コンフリクトへの対処を含めて調査を実施する。平成24年度と同様に,調査会社に委託してWeb調査を実施する。対象者は共働き成人男女各500名とする。 調査実施後に回答された多変量データを用いて,仕事領域の要因と家庭領域の要因がファシリテーションとコンフリクトに影響を及ぼすプロセスについて,統計的検定によって検討する。検討する具体的内容は第1に,ファシリテーションとコンフリクトを従属変数とし,仕事領域の要因と家庭領域の要因を独立変数にした重回帰分析を実行し,どの要因がどのような影響を及ぼすかというものである。第2には,ファシリテーション得点とコンフリクト得点の差得点をワーク・ファミリー・バランス得点,ファシリテーション得点とコンフリクト得点の乗得点をワーク・ファミリー・インタラクション得点として操作的に定義し,これらの得点と他の要因との関係について,探索的に検討する。バランス得点とインタラクション得点については,海外の先行研究で一部用いられているものであるが,実態を妥当に測定できているかについては議論の余地が残されている。本研究のデータを用いて,この問題についても合わせて検討したい。 これらの成果について,国内の学会で発表しそこでの議論をふまえて学術雑誌に投稿する。
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次年度の研究費の使用計画 |
該当なし
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