本研究では仕事役割と家庭役割の両立状況に着目し,ネガティブな側面であるワーク・ファミリー・コンフリクトとポジティブな側面であるワーク・ファミリー・ファシリテーションの両面から総合的に検討するために,夫婦共働き男女を対象としたweb調査が実施された。平成26年度には1回,研究期間を通しては合計3回実施され,縦断データが含まれた。分析結果から以下の成果が得られた。 第1に,関連する尺度が妥当性・信頼性を担保したものとして構成された。ワーク・ファミリー・ファシリテーションが6因子構造をもつ尺度として開発された。またワーク・ファミリー・コンフリクト対処尺度が洗練され,6因子の構造をもつ改訂版尺度が構成された。これらによってワーク・ファミリー・バランスを検討するための素材が準備された。 第2に,ワーク・ファミリー・バランスの心理的体験の実態が男女別・就業形態別に確認された。その結果,共働き生活はパートタイム勤務の女性にとってはポジティブな体験となっており,フルタイム勤務の女性にとってはポジティブな体験とネガティブな体験が相殺されている可能性があり,男性にとってはポジティブな体験とネガティブな体験が両方あるアンビバレントな状態になっていることが推測された。 第3に,ワーク・ファミリー・バランスの心理的体験の因果プロセスが男女別・就業形態別に検討された。その結果,フルタイム勤務の男女にとっては,仕事と家庭が不可分に体験されており,男性では仕事や家庭でのエネルギー補充が,女性ではコンフリクト対処が精神的健康や満足感に寄与する可能性が示された。パートタイム勤務の女性は仕事と家庭を切り分けて共働き生活に適応していることが推測された。 以上より,ワーク・ファミリー・バランスの心理的体験が一部解明され,今後の社会的対策に資するための成果が得られた。
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