研究概要 |
本年度は、単一事例実験が行われた研究のレビューをもとに、その効果量の分布から公表バイアスの検討を行った。高橋・山田・小笠原(2009)で報告されている「特殊教育学研究」第1巻から第43巻までの51の研究において算出された3種類の効果量(PND, ES_BS2, ES_C)の値について、その分布を考察した。仮に公表バイアスがなく、かつ対象児の選定も無作為になされているならば、これらの効果量は左右対称の分布となることが考えられる。その結果、いずれの効果量の分布もそうした特徴を持っていなかった。まず、PNDの分布は左に大きく歪んでいた(歪度=-0.966)。一方、ES_BS2とES_Cの分布は、いずれも右に大きく歪んでいた(歪度=1.164, 1.721)(ただし、ES_BS2の分布においては1件の外れ値を除去している)。同様の傾向は、マルチベースラインデザインにもとづく介入のみを取り出しても見られた。この結果は、単一事例実験の結果を公表する上で、介入の効果の大きさにもとづく何らかのバイアスが存在していることをうかがわせるものである。ただし、これらの研究は標的行動、介入の内容、対象児の属性において様々であり、こうした研究の特性におけるばらつきが効果量の偏りを生み出していたと考えることもできる。今後は、条件面である程度の等質性が保証される研究を数多く収集することで、同様の検討を行う必要がある。
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