研究課題
若手研究(B)
申請者はこれまでユーモアの生起メカニズムに関して認知心理学的アプローチによる検討を行ってきた。その中で、約40年にわたりユーモア研究者を二分してきた2つの心理学的モデルを矛盾なく統合する包括的なモデルを提唱している。このモデルでは、従来のモデルの概念図式を整理し、内的不適合(状況は理解可能か否か)、外的不適合(状況は特異的か否か)、非重大性(状況は個人的・社会的に重大な意味や価値を持つか否か)という3つの要因によってユーモアの生起が規定されることを想定している。本年度は、fMRI実験を実施するための予備的検討として、実際にこれら3要因がユーモアの程度を規定するかを心理学的実験によって定量的に検討した。181名の大学生に、16のユーモアエピソードを提示し、内的不適合、外的不適合、非重大性、ユーモアの4要素について評定を求めた。この16のエピソードのそれぞれについて、内的不適合、外的不適合、非重大性の3要因を各2水準で操作した8バージョンを作成した。まず操作確認として、3要因の操作がそれぞれの要因の評定を選択的に変動させたことを3要因分散分析により確認した。さらに、各要因の評定値がユーモアの評定値をどの程度の精度で予測するかを、3分割交差検定により検討した。その結果、3パターンの訓練事例のいずれにおいても、同様の重回帰式が推定され、その重回帰式によってテスト事例の変動の60%前後(59~67%)が予測された。また、3要因間の相関係数は小さく(r = -.09~.20)、多重共線性の可能性は低いことが示された。以上の結果から、モデルにおいて想定される3要因を選択的に操作可能であること、また、その3要因によってユーモアの大部分が規定されることが示された。
2: おおむね順調に進展している
本年度はユーモアの生起因について、行動実験による包括的な検証を行い、想定された3要因によってユーモアの評定値における変動の大部分を説明しうることを明らかにした。本研究が扱う3つの社会的感情の中でも、特にユーモアの生起メカニズムは未解明の部分が多く、このような精度でユーモアの生起を予測した先行研究は存在しない。本研究では、初年度の段階でユーモアの生起を規定する主要な要因を同定し、また、それらの要因を実験的に操作する方法を確立した点で、「おおむね順調に進展している」と評価できる。
今後、①定型発達者における社会的感情(愛着感情、道徳感情、ユーモア)の神経基盤、②自閉症者における社会的感情の障害の脳内メカニズムの2点について検討する。①に関しては、定型発達者を対象に心理学的知見に基づくfMRI実験を行い、社会的感情の生起に関わる複数の情報処理プロセスの神経基盤を個別的に捉える。②に関しては、自閉症者を対象に同一の方法によるfMRI実験を実施し、定型発達者との比較から、いずれの情報処理プロセスにおいて機能低下が見られるかを検証する。また、自閉症者の間でも脳活動を比較し、心理学的検査との関連を検討することで、fMRIを用いた診断補助や症状評価の可能性を検証する。
実験参加者や実験補助者への謝礼額として30万円程度を使用する。MRI計測を安全かつ効率的に実施するため、2名分の実験補助者の謝金として30万円、自閉症の症状評価のため、心理検査(ADI-RおよびADOS)を実施する臨床心理士への謝金として20万円程度を使用する。fMRIデータの解析用にSPMのプラットフォームとなる数値演算ソフトMatlabの購入費として約10万円を使用する。研究協力者との打合せや学会発表のための旅費として30万円程度を使用する。書籍購入費として10万円程度を使用する。
すべて 2013 2012
すべて 雑誌論文 (5件) (うち査読あり 5件) 学会発表 (1件)
精神医学
巻: 未定 ページ: 未定
発達心理学研究
巻: 55 ページ: 355-362
Research in Autism Spectrum Disorders
巻: 6 ページ: 1265-1272
10.1016/j.rasd.2012.04.002
巻: 54 ページ: 889-898