研究課題
本年度は、実験刺激選定のための予備調査として519名の大学生を対象とした調査を実施し、160のエピソード刺激について、ユーモアとその生起を規定すると想定される3つの認知的要素(内的不適合、外的不適合、重大性)に関する評定値を得た。解析の結果、要因の人為的な操作を行わない場合でも、要因の操作を行った前年度の結果と同様に、ユーモア評定の約7割が3要因の評定によって説明されることが示された。このことから、申請者のモデルが、人為的な要因操作をともなう状況だけでなく、より一般的なユーモア刺激にあてはまることが示唆された。次に、予備調査で使用された刺激から3要因の評定の分散が最大化するように80の刺激を選定し、大学生を対象にfMRIの予備実験を行った。各刺激を前半部と「落ち」に分けて15秒間隔で提示し、脳活動の指標となるBOLD信号を測定した。「落ち」の提示による活性を前半部の提示による活性と比較したところ、報酬系を構成する線条体、視床や感情表出に関係する補足運動野、感情制御に関わる小脳などで有意な活性が見られた。また、3要因の評定値と関連する脳部位を検討したところ、内的不適合(不可解さ)の評定は高次認知処理に関わる前頭前野や言語・記憶に関わる側頭葉、外的不適合(特異性)の評定は前頭前野や新奇性の検出に関わる尾状核、重大性の評定は感情処理に関わる前帯状皮質や補足運動野の活動とそれぞれ関連することが示された。これらの結果は、それぞれの認知・感情処理の特徴とよく合致しており、研究デザインの妥当性を示唆している。今後、定型発達者および自閉症者を対象とした本実験を行い、その結果を比較することにより、自閉症者におけるユーモアの特異性をもたらす脳内メカニズムを明らかにすることができると予想される。
2: おおむね順調に進展している
本年度は、予備調査および予備実験を実施し、実験に使用する刺激の選定とデザインの策定を行った。予備実験の結果は、おおむね仮説に一致しており、今後、このデザインに基づく本実験を行うことで、研究の目的を達成することができると考えられる。
今後、①定型発達者における社会的感情(ユーモア、道徳感情)の神経基盤、②自閉症者における社会的感情の障害の脳内メカニズムの2点について検討する。①に関しては、定型発達者を対象に心理学的知見に基づくfMRI実験を行い、社会的感情の生起に関わる複数の情報処理プロセスの神経基盤を個別的に捉える。②に関しては、自閉症者を対象に同一の方法によるfMRI実験を実施し、定型発達者との比較から、いずれの情報処理プロセスにおいて機能低下が見られるかを検証する。また、自閉症者の間でも脳活動を比較し、心理学的検査との関連を検討することで、fMRIを用いた診断補助や症状評価の可能性を検証する。当初計画では、ユーモア、道徳感情、愛着感情の3種類の社会的感情について扱うこととしていたが、費用の制約により、3種類の感情について定型発達者と自閉症者のデータを収集することは難しい見込みとなっている。そのため、研究計画を一部変更し、ユーモアと道徳感情についてのみ検討を行うこととする。
倫理審査の遅れにより本実験の実施が次年度にずれこんだため。実験参加者(定型発達者40名、自閉症者30名)への謝礼として90万円程度を使用する。実験補助者への謝金として20万円程度、心理検査(ADI-RおよびADOS)を実施する臨床心理士への謝金として20万円程度を使用する。研究協力者との打合せや学会発表のための旅費として40万円程度を使用する。その他、消耗品などの購入に10万円程度を使用する。
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発達心理学研究
巻: 印刷中 ページ: 未定
心理学研究
精神医学
巻: 56 ページ: 43-52
Research in Developmental Disabilities
巻: 34 ページ: 2909-2916
10.1016/j.ridd.2013.05.023.
http://www006.upp.so-net.ne.jp/ito_h/