申請者はこれまでユーモアの生起メカニズムに関して認知心理学的アプローチによる検討を行ってきた。その中で、約40年にわたりユーモア研究者を二分してきた2つの心理学的モデルを矛盾なく統合する包括的なモデルを提唱している。このモデルでは、従来のモデルの概念図式を整理し、内的不適合(状況は理解可能か)、外的不適合(状況は特異的か)、非重大性(状況は個人的・社会的に重大な意味を持つか)という3つの要因によってユーモアの生起が規定されることを想定している。 本研究では、(1)実際にこれらの3要因によってユーモアが規定されているか、(2)3要因は脳内のどの部位(またはどのようなネットワーク)において処理されているか、(3)定型発達者と自閉症スペクトラム者の間でこれらの脳部位の活動に差異があるか、の3点を検討することを目的とした。 (1)に関しては、一般大学生(計700名)を対象とした2つの調査の結果から、内的不適合、外的不適合、非重大性の3要因によって、ユーモア評定の約6~7割の変動が説明されることが示され、申請者のモデルの妥当性が確認された。 (2)に関しては、(1)の調査の結果に基づいて選定された80の実験刺激を用いて、定型発達者18名を対象としたfMRI実験を行った結果、内的不適合の評定は高次認知処理に関わる前頭前野や言語・記憶に関わる側頭葉、外的不適合の評定は新奇性の検出に関わる尾状核、重大性の評定は感情処理に関わる前帯状皮質や補足運動野の活動とそれぞれ関連することが示された。 (3)に関しては、自閉症者11名を対象に同様のfMRI実験を行い、定型発達者のデータと比較した結果、前頭前野で定型発達者よりも顕著な活動が見られた一方、尾状核や前帯状皮質の活動は定型発達者よりも弱いことが示され、ユーモア刺激の処理のプロセスに差異がある可能性が示唆された。
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