本研究は、小学校高学年の学級で強調される社会的な目標が児童の学級適応および学習動機づけに関連するプロセスを検討することを目的とした。平成26年度では、期間全体を通して中核的な研究を実施した。関西圏内の2県に属する3市の小学校23校(117学級)に所属する小学生合計3609名(女児=1756名,男児=1817名,不明=36名)に対して、大規模な質問紙調査を行った。質問紙では、平成25年度に作成した「学級の社会的目標構造尺度」、「友人との学習活動尺度(向社会的目標vs規範遵守目標)」、「内発的動機づけ」、「自己効力感」、「学級適応」について回答を求めた。得られたデータについて、児童レベル、学級レベルの2水準によるマルチレベル構造方程式モデルにより解析した。その結果、学級レベルにおいて、学級の社会的目標構造の一つである「向社会的目標」が強調される学級ほど、友人との学習活動が行われていることが分かった。そして、友人との学習活動が行われることで、児童の学級適応が促進されること、さらに学習に対する動機づけ(内発的動機づけ、自己効力感)が高まることが見出された。学級の社会的目標構造は、集団の規範や人間関係の円滑化を強調する目標である。こうした目標を学級で強調することは、学級内の児童同士の交流を活性化することで、児童の社会面と学習面双方に間接的な影響をもたらすといえる。本研究の意義として以下の2点を挙げることができる。まず、社会的な目標が社会面のみならず、児童の学業面に関係することを見出した本研究は、学術的に貴重な知見をもたらすと考えられる。次に、本研究は、社会的目標(向社会的目標)を学級で強調することの効果について実証したため、教育実践、特に学級経営を考える上で貴重な資料になると考えられる。
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