本研究は,子どもを対象に「状況に応じた欺きと道徳判断」に着目し,その発達過程を「心の理論」と関連づけながら,個別実験による実証的方法で解き明かすことを目的とするものである。平成26年度は,幼児期と児童期の子どもを対象にした研究から,以下の2つのことを検討することができた。 第1に,児童期の子どもを対象に,心の理論の発達をふまえた謝罪の認識の発達を検討した。「謝罪」は,相手に嫌な思いをさせてしまったときに関係を修復する大切な行動とされる。相手の加害場面で謝罪があったかどうかにより,怒りなどの感情がどのように変化するかといった点は,行為の善悪を考える道徳判断の発達を考える上で重要である。調査の結果,対人葛藤場面において,相手の謝罪の有無は,自己の怒りの変化に強く影響するものの,両者の親密性はあまり影響しないことが明らかになった。また,そこには心の理論の発達も関連することが明らかになった。 第2に,幼児期の子どもを対象に実施した「状況に応じた欺き」が求められる研究の再分析を行った。大人を対象に複数回の調査を行うことで,幼児期の子どもとの間での欺きにおける判断や理由の違いが明らかになり,幼児期の子どもにとって,どのような状況が欺くうえで難しいのかを明らかにすることができた。
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