本研究は、動機づけの不安定性を測定する方法を確立し、自律的動機づけおよび動機づけ方略との関連を検討することで、動機づけの安定性がもつ概念的特徴を明らかにすることを目的としていた。昨年度の研究成果をもとに、本年度は2つの研究を実施した。1つ目に、大学生を約300名を対象として、動機づけの不安定性の知覚を測定する尺度を実施し、学習への取り組みの低さとの関連を検討した。その結果、動機づけの不安定性の知覚が高いほど先延ばしが高いことが示され、動機づけの不安定性は課題への積極的な取り組みを低下させることが明らかになった。2つ目の研究として、1日ごとの状態的動機づけの測定によって、動機づけの不安定性を測定し、動機づけの不安定性の知覚との関連を検討した。その結果、動機づけの不安定性は不安定性の知覚と関連を示し、不安定性の知覚によって妥当な測定をし得ることが明らかにされた。また、日常の学習経験によって、状態的動機づけが変動し得る可能性が示唆された。2年間にわたる研究による成果は以下の4点であった。1つ目に、状態的動機づけの複数回測定によって、動機づけの不安定性を捉えることができた。これまでは安定した特性的な動機づけに焦点があてられてきたが、短期間に変動する動機づけの側面についても焦点をあて、測定する方法が開発された。2つ目に、動機づけの不安定性の様相にはいくつかのパターンがあることが示された。3つ目に、動機づけの不安定性の程度は、自律的な動機づけと関連する部分があった。一方で、動機づけの不安定性は、特性的な動機づけだけでなく、環境的な要因によっても影響を受ける可能性が示唆された。4つ目に、主観的評価によって動機づけの不安定性を測定する尺度が作成された。以上の研究成果は、大学教育をはじめとする高等教育場面における学習意欲の問題に対して新たな示唆を与えるものといえる。
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