研究課題/領域番号 |
24730539
|
研究種目 |
若手研究(B)
|
研究機関 | 福岡教育大学 |
研究代表者 |
松尾 剛 福岡教育大学, 教育学部, 准教授 (50525582)
|
研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
|
キーワード | 協同学習 / 教室談話 / 教師の感情 |
研究概要 |
(1)教師の感情に関する尺度項目の選定と精緻化:教師の感情に関する調査尺度の作成のため、関連する先行研究のレビューを行った。具体的には、感情労働(emotional labor)の枠組みから教師の感情制御について検討している、Teacher Emotional Labor Scale (TELS)(e.g.,Cukur,2009)や、感情制御に関する尺度(e.g.,Gross & John, 2003)などを中心に、項目の選定と精緻化を行った。 (2)児童の応じる行為に関する探索的検討:授業中の相互作用の中で生じる教師の感情という本研究のテーマにおいては、児童が授業中にいかなる相互作用を行っているか、その実態について体系的に整理を行うことも重要となる。特に、本研究では児童が互いに学び合う授業づくりの過程に焦点化している。そこで、児童が学び合う授業の成立に不可欠となる、児童の「応じる行為」の様相について、授業観察をもとに整理を行った。具体的には、低・中・高学年の授業談話過程の事例を分析し、応じる行為の特徴として、①機能の多様性、②潜在的な応答の存在、③対象の重層性、④時間・空間的な広がり、などの点を指摘した。この研究は、日本発達心理学会第24回大会 自主シンポジウム(SS4-3) 教室における対話能力の発達過程-応答する力に焦点を当てて- において発表をした。 (3)GRの共有過程における教師の感情の機能:教師が低学年の児童に対して話し合いのグラウンド・ルールを共有していこうとする過程について分析を行った。特に朝の回などにおける関わりを中心に分析し、児童の変化に対して、教師が互恵的な関係の中で情動を表現するプロセスなどの観点からも考察を行った。この研究は、高垣・松尾・丸野(印刷中)として学会誌に掲載予定である。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
3年計画の1年目として、本年度は研究の枠組みを精緻化するために文献のレビューを行った。特に、Teacher Emotional Labor Scale (TELS)など、感情制御に関する尺度項目の整理を行っている。次年度以降は、これらの先行研究のレビューに基づいて、授業中の教師の感情に関する質問紙尺度の構成や、授業後のリフレクションにおけるインタビュー項目の精緻化を行う予定であるが、そのための準備が順調に進展していると判断している。 また、実際に教室で行われている談話過程についての研究も同時に進展している。特に本年度は、児童の応じる力についての整理を行い、発言の中にも潜在的な応答が見られることなどを明確にできたことは、今後の研究の展開につながる示唆が得られたものと考えている。教師の関わりについても、特にコミュニケーションにおいて、論理性だけでなく、情動の側面が重要となると考えられる低学年のデータを分析し、教師の関わりの様相をまとめた。この知見は、今後の授業観察、授業分析の際の枠組みとして活用しうるものであり、教師の発話の分析という観点からも有用な示唆が得られたと考える。 教員への調査と、実際の授業過程の質的な分析という本研究の計画を遂行するためには、調査対象となるフィールド(小学校)との関係作りも不可欠である。この点についても、本年度は4校の小学校において調査を開始しており、次年度以降の本格的な調査に向けての体制づくりが順調に進展しているものと考える。
|
今後の研究の推進方策 |
(1)授業中の児童との社会的相互作用過程における教師の感情に関する質問紙尺度の作成:本年度行った先行研究のレビューによって整理された枠組みをもとにして、上記の質問紙尺度項目の作成を行う。具体的には、松尾(2011)、Teacher Emotional Labor Scale (e.g.,Cukur,2009)や、感情制御に関する尺度(e.g.,Gross & John, 2003)と、本年度の授業観察で得られた、児童の応じ方に関する諸側面などをベースに作成をする。 (2)小学校における授業参観と事後のインタビュー調査をもとに、実際の授業場面における教師の感情の機能性や、感情制御の過程について、探索的に、かつ、精緻に調査する。この点については、継続的に関わっている小学校をフィールドとして、複数の学年の教員に対する横断的な調査と、教職経験年数の異なる数名の教員への縦断的な調査を組み合わせて行う予定である。特に、後者の教員としては、研究代表者が5年以上にわたって、児童が学び合う授業作りに関する協同研究を行っているサークルのメンバーから選定する予定であり、有用なデータが得られるものと考える。 また、授業後のリフレクションの方法として、頭部に装着可能な小型カメラを用いて撮影した1人称視点のVTRデータの活用なども計画している。すでに、予備的な調査として、教員志望の大学生数名に同様のカメラを装着した状態で、他の学生へのプレゼンテーションを行ってもらい、その映像を用いて振り返りを行うという試みを実施している。この調査の中で、学生からプレゼンテーション中の感情に関する語りが多く引き出されるといった点についての示唆も得られており、本研究の目的を達成するための有効な手だてとなりうると想定される。
|
次年度の研究費の使用計画 |
「該当なし」
|