研究課題/領域番号 |
24730539
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研究機関 | 福岡教育大学 |
研究代表者 |
松尾 剛 福岡教育大学, 教育学部, 准教授 (50525582)
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キーワード | 感情 / 授業実践 / 教師認知 |
研究概要 |
本年度は、具体的な授業の文脈を対象として、教師にどのような感情が生起するのか、また、それらの感情はどのような認知過程(児童や生徒の反応、授業者の判断や解釈など)において生起するのか、そして、授業実践にどのような影響を及ぼすのか、という点について探索的な検討を行った。具体的には以下の二つの調査を実施した。 (1)中学校および小学校の初任者教員379名を対象として、ポジティブな感情とネガティブな感情のそれぞれについて、①生起した感情の内容、②その感情が生起した状況、③その感情が授業の展開に与えた影響、の3点についての自由記述を求めた。当該調査により得られた自由記述データについては、現在カテゴリー分析を行っている。 (2)2013年度に中学校において教育実習を行った大学4年生1名を対象に、以下の①~③の流れで授業の振り返りを自由記述してもらった。①実習中に行った授業をビデオ録画する(教室後方から全体を録画するビデオ、授業者の頭部に装着して録画するビデオを使用)、②授業者がビデオを授業後に視聴しながら、生起した感情の種類、感情が生起した文脈、生起した感情が授業に与えた影響、の3点を中心とした振り返りを行う、③振り返りの内容について、自分の思考過程も含めて可能な限り具体的に記述する。複数回の授業について上記の振り返りを行い、全5965文字の自由記述データが得られた。このデータについてカテゴリー分析を行った結果、授業前に教師が行っている予測や授業計画とは異なる出来事に対してネガティブな感情を強く経験し、以降の教授行為が妨げられていること、また、授業の妨げとなるような感情について制御するための行動のバリエーションが少ないこと、「ひらきなおり」や「あきらめ」といった感情が、授業計画の修正を導いていること、などの点が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の研究目的は、授業実践の具体的な文脈を対象として、感情が生起し、機能するプロセスを、より詳細に検討するためのデータ収集であった。本年度に実施した二つの調査を通じて、この目的に合致した、非常に豊かな自由記述データを得ることができた。これらのデータは、次年度に予定している調査を行うための十分な予備調査として位置づけることが可能であり、また、本年度の調査結果については、論文化の作業を行っている。このような状況を踏まえて「おおむね順調に進展している」と自己評価した。
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今後の研究の推進方策 |
(1)本年度得られたデータを論文にまとめ、発表を行う。 (2)教職経験の豊かな教員を対象とした調査を行い、本年度の成果と比較することで、授業における感情の機能性や活用についての変化過程を検討する。 (3)同一の教員を対象とした縦断的な調査を行うことで、教員の技量向上のための研修における、授業中の感情を語ることの効果について検討する。 (4)特に(2)と(3)について、本年度は教員の自由記述を主な分析対象としたが、今後は実際の授業における談話過程の分析とも組み合わせることで、両者の関係性についてより精緻な検討を行う。
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