研究実績の概要 |
本プロジェクトの目的は,授業中に教師が経験している感情と授業過程との関連性を検討することであった。これまでの研究では,教師に対するインタビュー調査や質問紙調査などを用いて,授業中に生起する感情の体系的な収集と整理,感情が生起する原因となる状況や認知の検討,生起した感情がその後の認知や行動に及ぼす影響の検討,などを行なってきた。 しかし,教師にとって授業中に経験していた感情を言語化することは非常に困難なことである。そのため,これまでのように言語的指標に依存した分析では,教師が授業中に実際に経験している感情を充分に検討できていない可能性が考えられる。 そこで本年度は授業中に生起する感情を測定するための指標として心拍数(HR)(Ahmed, van der Werf & Minnaert, 2010)の変化に注目して,教師の認知や授業談話との関連性を検討した。公立小学校2校の教師6名(教員歴1年~27年)が実施した各1時間の国語の授業について,①ビデオ撮影,②授業中のHR(bpm)の測定,③授業の振り返りのインタビューなどを実施した。 授業中の心拍数についてクラスター分析を行なった結果,教員の経験年数と対応したいくつかの変化パターンが示された。経験年数5年未満の教員(3名)は導入時の心拍数が特に高く,授業の終末部で心拍数の下降が見られた。経験年数5年~10年の教員(2名)は,導入時の心拍数の上昇は共通していたが,授業の中盤部で心拍数の下降が見られた。経験年数27年の教員(1名)は,全体として安定した心拍数の変化を示していたが,授業の後半部で下降と上昇が共に見られた。授業の振り返りの内容から,5年未満の教員に見られた導入時の心拍数の上昇は強い緊張を表している可能性や,経験年数に関わらず授業中の迷いや悩みなどの感情が心拍数の下降と関連している可能性などが示唆された。
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