本研究は、老年期の認知特性の理解や生涯学習の支援のために、高齢者のモニタリングに関する検討を目的としていた。 研究1と研究2において、高齢者における記憶能力のモニタリングを詳細に検討した。その結果、高齢者の記憶能力のモニタリングにおいて、他人と比べた場合、記憶能力の自己高揚的評価が生じることがこれまでの研究同様に確認された。この理由として、社会的な活動をしていること、個人で記憶に関する活動をしていることなどが多くあげられていた。すなわち高齢者は、日常生活を活動的に過ごすことが、記憶の能力の維持につながっていると考えていることが伺えた。また、認知症という記憶に関係する病気に対して、恐怖感を抱いていると同時に、罹患していないこと、その状態がすでに記憶能力がいいと評価する判断基準になっているようであった。実際に記憶テストなどをする機会がほとんどない高齢者にとって、自己の記憶の評価は、日常生活そのものや認知症への罹患を軸に形成されていると考えられた。 また、記憶課題については、興味・関心のある事柄については記憶能力の自己評価は高いようであるが、それ以外の事柄は覚える必要がなく、たとえ記憶できなくても意に介さない傾向が見受けられた。 さらに、研究3において、記憶能力のモニタリングにおいて高齢者のライフスタイルごとに違いが見られるのかについて検討した。その結果、ライフスタイルが消極的な群は、記憶のモニタリングに関してもネガティブであることが示唆された。このことから、生涯学習や記憶活動の支援において、高齢者がどのようなライフスタイルをもつのかをあらかじめ知ることにより、様々なライフスタイルをもつ高齢者に即した、的確なサポートができるのではないかと推測される。
|