研究課題/領域番号 |
24730545
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 東海大学 |
研究代表者 |
井上 久美子 東海大学, 阿蘇教養教育センター, 講師 (50435153)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 幼児 / 身体意識性 / 共感性 |
研究概要 |
私たちの心理的発達は身体性の発達と密接に関わっているが、これまで幼児を対象に身体意識性を検討した研究は少ない。そこで、本研究では内側から感じられる身体の感覚を身体意識性として捉え、共感性の発達との関連を検討することを目的とした。 幼稚園の年長児を対象に、身体の動きを楽しむ導入課題、肩周りのリラクセイション課題を行った。動作課題後に、身体感覚と密接に繋がると考えられた言葉、すっきり、ほっ、ぼーっ、イライラ等から成る表情カードを選択してもらうことで動作課題遂行において生起した身体感覚に伴う情動体験を測定し、あわせてその体験があった身体部位を尋ねた。共感性については、対象児に母子の会話場面についての材料絵本を見てもらい、子どもの喜び場面、困り場面における母親の情動を表情カードの選択により捉えた。その後、材料絵本と同じ場面をごっこ遊び場面において行い、子ども(実験者)の喜び場面、困り場面で、幼児が母親役としてどのように応じるかを捉えた。 身体意識性について、身体感覚の生起に伴う情動体験及び身体部位の特定における正確さという点から、肩周りの弛緩体験に伴う身体の感じを適切に表現できた場合を身体意識性が高いと評定した。その結果、男児よりも女児の方が身体意識性が高いと評定された幼児が多く、性別による身体意識性の違いが窺えた。次に、絵本課題における表情カードの選択、ごっこ遊び場面における応答から共感的応答について評定し、身体意識性と共感的応答との関連について検討した結果、両者に関連があることが示唆された。 以上の結果から、幼児にとって身体感覚を的確に意識し、表現できることは、他者への共感的応答と関連している可能性が窺われた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成24年度の研究計画は、幼児を対象とした身体感覚への意識性と共感性との関連を検討することであったが、当初の研究計画に沿ってほぼ実験を進めることができ、身体意識性と共感的応答との関連について一定の結果を出すことができたという点において、研究計画通りにおおむね順調に進展したと評価できる。特に、これまで取り上げられることが少なかった幼児の身体意識性について、本研究では内側から感じられる身体の感覚を身体意識性として捉え、実際に動作課題を用いた身体動作を通して、表情カードを用いて身体感覚の生起に伴う情動体験の測定を行うという新たな試みを実践することができた。また、共感性(今回は共感的応答という点から検討)についても、材料絵本における他者の情動理解という認知的側面からの検討だけでなく、ごっこ遊び場面の喜び場面、困り場面において対象児がどのように応じるかという行動ベースからも捉えることにより、認知・行動の両面から共感的応答を検討することができたという点においても意義があることだと考えられる。 しかしながら、測定方法の妥当性という点において、充分な検討ができていないという課題が残っている。したがって、今後は身体意識性の測定についての妥当性の検討を行う。そして、研究成果を纏め、論文投稿を積極的に行っていく予定である。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究としては、これまでの研究経過において、幼児を対象にした動作課題による身体意識性の測定を行い、一定の結果を得たが、その測定法の妥当性の検討に関して課題が残っている。そこで、測定法の妥当性について確認することを第一の推進方策とする。その具体的な方策としては、課題が幼児向けの内容となるため、課題に比較的、心的抵抗感があまりなく取り組めると考えられる心理学専攻の大学生に実験協力を求め、身体意識性を捉えるための動作課題(導入課題とリラクセイション課題)を体験してもらい、その動作体験について質問紙と自由記述による回答を求めることで、動作課題による身体感覚の生起に伴う情動体験の中身をより詳細に捉える。幼児用に作成した身体感覚に関連した表情カードを用いた情動体験の測定と身体部位に関する質問を行い、身体意識性の測定法に関する妥当性の検討を行う。また、共感性の測定についてもあわせて実施する。以上の経過を踏まえた上で幼児に対する本実験を引き続き実施し、これらの研究成果を纏め論文投稿を行う。 第二に、調査対象を幼児から小学生に拡げ、小学生を対象とした身体意識性と共感性との関連についての研究を行う。小学生に対しては、身体感覚に関する言語表現が可能となるため、児童用の身体意識性尺度を作成し検討する。対象児に導入課題・動作課題を集団形式で行い、課題遂行に伴う動作体験について作成した身体意識性尺度を実施し測定し、身体意識性と共感性との関連について検討する。得られた知見は研究成果として纏め、学会発表及び論文投稿を行っていく。
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次年度の研究費の使用計画 |
研究を進める過程において必要な研究費を執行したため、平成24年度の未使用額が生じたが、前年度の研究費も含め、当初の予定通りに研究を進めていく。平成24年度の実験計画において未使用である研究費に関しては、記録用ビデオカメラ一式を購入する予定である。理由としては、幼児を対象とした実験において2台のビデオカメラによる記録が必要であるが、現在の所有数が1台であり、記録用ビデオカメラが不足するためである。特に、平成25年度は集団形式での実験も行う予定であるが、こちらの研究計画においてもビデオカメラが2台必要となる。したがって、記録用ビデオカメラ一式をもう1台購入し、正確なビデオ記録を行う。 次年度の研究費に関しては、データ解析用のパーソナルコンピュータ及びデータ解析用ソフトを購入する予定である。理由としては、実験により得られたデータを整理、解析する必要があるためである。次に、平成24年度に得られた研究結果を纏め、研究成果を研究会等で積極的に発表し、今後の研究展開を検討していくために、プロジェクターを購入する予定である。さらに、論文作成及び論文投稿に必要な研究関連図書(身体意識性と共感性の発達に関する研究図書)を購入予定である。 その他の使用計画としては、データの収集に必要な研究旅費及び研究成果を学会(日本発達心理学会など)において発表するための旅費として研究費を用いる予定である。
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