研究課題/領域番号 |
24730545
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研究機関 | 西南学院大学 |
研究代表者 |
井上 久美子 西南学院大学, 人間科学部, 講師 (50435153)
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キーワード | 身体意識性 / 共感性 / 幼児 / 児童 / 大学生 |
研究概要 |
井上(2013)では、幼児を対象に肩の上げ下げ課題を行い、課題を通して身体の状態がどのようになったと感じたか、また身体のどこの部位が意識されたかについて個別に調査を行った。その結果、多くの幼児において身体が弛緩した感覚が体験されていた様子が示唆された。そこで、大学生に同課題(肩の上げ下げ課題)を行い、大学生の身体の状態及び身体部位の意識のあり方について捉えることで、幼児のデータとの比較検討を行い、幼児の身体感覚への意識性について発達的示唆を得ることを目的とした。 その結果、大学生と幼児とも同様に肩の上げ下げ課題を通して、課題遂行により弛緩感が共通して体験されていた様子が示された。しかし、弛緩体験が起きた身体部位を特定化することに関しては、大学生では、共通した回答が見られる傾向にあったが、幼児では個人差が見られた。すなわち、幼児においては、まだうまく身体部位を意識化できていない在り様が考えられた。 次に、小学校低学年(2年生)の児童を対象に、幼児(井上,2013)において実施された課題と同課題(肩の上げ下げ課題)を行った。課題を通しての身体への意識のあり方を捉えるための児童用(小学校低学年用)の身体意識性に関する尺度を作成した。また、幼児(井上,2013)の共感性の測定のために行った質問と同内容から成る共感性尺度を作成した。肩の上げ下げ課題を集団形式で児童に一斉に行った結果、多くの児童で肩の上げ下げ課題後は、“すっきり”とした弛緩感が体験されていた様子が窺えた。さらに、共感性尺度を実施した結果、幼児に比べて相手の喜び場面や困り場面での感情理解が進み、また相手への共感的応答がより具体的な内容に変化している様子が窺えた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度(2013年度)の研究計画は、井上(2013)において幼児を対象とした肩の上げ下げ課題を用いた身体意識性の測定について、大学生を対象に同実験を行い、幼児の結果との比較を行うことであった。その結果、今年度は大学生を対象に井上(2013)と同課題を実施することができ、幼児の身体への意識について、幼児が大学生と同じように弛緩感を体験できていること、しかしその身体部位の特定が難しいという発達的示唆を得ることができた。したがって、幼児の発達的示唆を大学生との比較において一定の結果を得ることができたことは評価に値すると考えられる。 また、今年度は児童(小学2年生)を対象に、肩の上げ下げ課題を実施した。その結果、児童においては動作課題の遂行において、“すっきり”とした弛緩感が体験され、また自己・他者への様々な気づきを得ることができた様子が示唆されている(現在、結果を分析中である)。今年度は、児童を対象とした実験にも着手することができ、実験計画はおおむね順調に進展していると評価できる。今後は、児童期後半(小学高学年)を対象とした身体への意識性及び共感性の関連についての研究を遂行し、幼児期から児童期にかけての発達過程を検討したいと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
次年度(2014年度)は、動作課題(肩の上げ下げ課題)を通した身体への意識性及び共感性の測定について、小学高学年の児童を対象として、実験を行いたいと考えている。身体への意識性については、井上(2013)で行った肩の上げ下げ課題を実施し、児童が肩の上げ下げ課題を通して、どのように自らの身体を意識化し、またどのような情動が体験されるのか検討を行う。そこで、これらの身体への意識性を測定するための児童(小学高学年)用の質問紙を作成する。共感性の測定については、幼児(井上,2013)及び児童(小学低学年)を対象に行った質問内容と同じ内容では、小学高学年の児童にとって回答が易しすぎると判断されるため、先行研究による既存の尺度を実施する。以上の身体への意識性、共感性に関する測定を通して、両者の関連について検討する。 上記の児童(小学高学年)を対象とした実験を行ったうえで、井上(2013)の幼児(年長児)に関する結果及び小学低学年から高学年を対象とした実験の結果を比較し、幼児期から児童期にかけての身体への意識性のあり方の発達的変化を検討することを目的とする。 並行して、大学生を対象とした同実験のデータを収集し、大学生の結果と、幼児・児童の結果について比較検討することで、幼児期から児童期にかけての身体性の発達過程について詳細な分析を行う予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
今年度は、大学生及び児童を対象とした実験を行った。その際に、当初の実験の計画で予定していたビデオカメラによる記録を行わなかった。理由としては、今年度は質問紙によるデータ収集のみで身体への意識性に関する測定を行うこととしたため、調査対象校にビデオカメラによる記録の申し出を行わなかった。そこで、当初予定していたビデオカメラ一式の購入が必要でなかったため、予算が余る結果となった。 また、旅費(データ収集、研究打ち合わせ)として計上した予算について、未使用分が発生した。理由としては、今年度は、データ収集を行った場所が所属機関から短距離であったため、研究遂行のために使用した旅費が当初予定していた額を下回ったことが挙げられる。 次年度は、小学高学年の児童を対象に、身体への意識性及び共感性の測定に関する実験を行うことを計画している。そこで、データ収集のための旅費、及び児童に対する実験協力への謝礼(文具)を購入予定である。さらに、本実験では、対象校の許可が得られれば、ビデオカメラによる記録も行いたいと考えている。そこで、記録用のビデオカメラ一式を購入することを予定している。次に、大学生に対する身体への意識性を検討するための実験も、今年度(2013年度)に引き続き実施していく予定であるため、実験協力への謝礼(文具)の購入を予定している。 また、これまでの幼児、児童、大学生の研究成果をまとめ、学外での研究会等において研究成果の発表を積極的に行うため、研究成果発表の際に必要となるプロジェクターを購入予定である。関連して、学外での研究打ち合わせ及び研究成果発表のための旅費として使用予定である。
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