平成26年度は,平成25年度における教授学習プログラム(β版)の開発を受けて,実際に小学4年生児童を対象とした効果研究を行った。本研究で開発した教授学習プログラムは4つのツールで構成されており,それぞれ①学習者の認識を把握するツール,②学習者の認識を変化させるための課題,③働きかけの手引き,④認識の変化を把握するツールである。特に②は実際に学習に行き詰まった時に学習者の自己効力を回復する目的のツールであり,学習者が得意としたり好んだりする作業を準備し,その作業実行により補償的に自己効力を上げるものである。 まずツール①を用いて,対象児童が持つ学習過程への心的要因の作用モデルを捉えたところ,学習に対するやる気や集中力が学習パフォーマンスに影響を与える信念体系を持っていることが明らかになった。次に,苦手とする算数の文章題に取り組ませた。対象児の学習への注意が向かなくなった時点で学習指導者が対象児へ働きかけるも,やる気がないなど学習課題から回避するためのネガティブ感情を選択的に認識する傾向が見られたので,ツール②を用いて自己効力の回復を試みた。実際に行った作業は好きなカードゲームとブロック課題であった。時間を制限して取り組ませた後に,再度,文章題へ取り組ませた。1週間後に,ツール④を用いて認識を調査した結果は事前の認識と同様であったが,やる気への統制可能性の認識が向上していた。この結果は本研究が採用する学習過程への認識に介入するアプローチの有効性を示すものである。但し,ツール②については自己効力が上がったのか,単にネガティブな感情に捕らわれていた気分が晴れただけなのか,その両方なのかは弁別できなかった。単なる気晴らしと補償的な自己効力を区別した検証を行うことにより,ツールの完成度が高まると同時に自己効力や自己調整学習に関する研究に対する理論的実証的データを提供することができよう。
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