本研究の目的は、幼児の「教えないで見守る」行為の発達過程を検討し、加えて、子どもの教える行為の発達に応じて保育者の認知や働きかけがいかに変化するのかを明らかにすることであった。 幼児を対象とした教示行為の課題を、保育園へ通う年中児、年長児を対象に実施した。理解課題においては、学び手である友だちの心的状態(知識・欲求・信念)を操作したストーリーを複数作成し、教えるか否かの質問とその回答に対する理由づけを求めた。また、子どもの教示行為に対する質問紙調査を保育園に勤務する保育者と保育者養成課程学生を対象に実施した。 幼児の教示行為については、心的状態が明示されない場面では、年中児も年長児も「教える」ことを選択することがわかった。ただし、欲求状態が明示された場合には、年中児よりも年長児で、「教えないで見守る」を選択する子どもが増えることが明らかになった。 保育者の認知と働きかけに関しては、保育者は、子どもの年齢や心的状態の明示の有無にかかわらず、「子どもは教える」と認知していた。また、学び手の心的状態が明示されない条件において、「教えないで見守る」ことを子どもに期待し、それに合わせた働きかけを行うことが明らかになった。働きかけについては、「教えてほしいか聞いてごらん」というように学び手の欲求をたずねることを促すような発言が多いことが明らかになった。 本研究の意義は、幼児の「教えないで見守る」ことの発達とそれに対する保育者の認知や働きかけを検討できる点にあった。幼児の「教えないで見守る」ことの理解は、年中児から年長児にかけて一部変化するが、保育者は子どもの年齢にかかわらず、「教えないで見守る」ことを幼児に期待していることがわかった。この結果から、保育者の子どもの教示行為に対する期待や働きかけが、年長児における「教えないで見守る」力の獲得に影響を与えている可能性が示唆された。
|