健常乳幼児(0~6か月)の25組の親子に以下の2種類の行動を交互に行ってもらった。1)椅子に腰かけた状態で母親が抱っこする(座って抱っこ)2)歩いている状態で母親が抱っこする(歩いて抱っこ)そしてこの間の乳幼児の発声、泣き声、体の動きを、2台のビデオカメラと高品位マイクで記録録画し、乳幼児の心拍数をホルター心電図(EKG)で記録した。解析すると、乳幼児は座って抱っこされているよりも歩いて抱っこされている時の方がよりリラックスしている状態にあることが行動学的だけでなく生理学的にも示された。 重要性:母と子の相互関係は児の神経発達に非常に重要である。早期の母子相互関係が幼少期から成年期への発達にどのように影響を与えるかを調べることにより自閉症や脳性まひの早期発見や予後診断などの臨床的応用も可能である。またこれらの研究結果は、乳幼児の生理学的状態を養育者に知らせる機器の開発という技術的応用の可能性も秘めている。 この研究はまた一般的な養育行動にも応用できる。今回判明したこの歩いて抱っこすると副交感神経の活性化を抑え泣くことが減少するという現象は、ワクチン接種や大きな音に驚くと言った一時的な刺激により泣いた子どもを短時間で泣きやませるのに効果的である。こうした乳幼児の生理学的反応とその即効的(Esposito et al 2013)かつ長期的な効果を科学的に理解することにより、親が子供の泣き声に過剰反応することを防ぎ、親のフラストレーションを減少させる。泣きやまないことは児童虐待の主要な要因の一つだからである。この研究はまた神経科学分野においても密接な関連がある。我々の研究は、ほ乳類全体における社会的結びつきと協力を決定づける神経生物学的メカニズムの解明に役立つかもしれない。
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