研究概要 |
本研究の目的は、東日本大震災で甚大な被害を受けた被災地域住民を研究対象とした、園芸療法を用いた生活介入(園芸介入)により心身機能の改善や心的外傷後ストレス(PTSD)低減の効果を実証することであった。園芸療法は日本では主に高齢者や障害者を対象に病院や施設で広く取り組まれており、植物に触れることによる心理的効果は示唆されているが、医学的な効果についてはまだ明確になっていない部分が多く存在する。そこで、(1)園芸療法を用いた生活介入による脳や心身機能への効果について、臨床心理学研究・MRI研究・免疫研究から解明し、最終的には、臨床心理学および神経科学を融合したアプローチから、(2)被害を受けた地域コミュニティ改善に向けた園芸活動を活かした被災地域の効果的なコミュニティ支援方法の提案を目指した。 園芸療法を用いた生活介入では、被災地在住の成人女性54名(介入研究A)と高齢者女性39名(介入研究B)を対象とした2つの介入実験による園芸療法の実証研究を行った。その結果、成人女性の介入研究では、介入群において左前帯状皮質膝下野 (-10, 22, -5)、左上前頭回(BA8) (-13, 16, 66) の灰白質量の増加が確認され、心理指標では対照群と比べ、介入群においてCAPS得点、PANAS PA得点、PTGI-J得点の3指標の変化量が有意に改善した。また、ストレスマーカー(唾液中コルチゾール、アミラーゼ)も介入後に有意に低下した。高齢女性では、介入群においてうつ症状や健康、QOLの改善、PTG(外傷後成長)の向上、および、ストレスホルモン(唾液中コルチゾール)の改善が認められた。 この結果を元に、被災地域のコミュニティ再生の手段として園芸療法による生活介入を、宮城県沿岸部の被災地域である気仙沼市、石巻市、岩沼市、亘理町の社会教育施設(公民館)を核として実施した。
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