研究課題
本研究は、統合失調症および精神病の発症リスク状態であるARMS(At-Risk Mental State)における認知的洞察の低下について、認知機能障害との関連を踏まえて検討を行った。ARMSは、精神病を発症する前の時期に該当し、主に軽い妄想や幻覚といった微弱な精神病性の症状によって特徴づけられている。こうした群における認知的洞察の低下の背景にある認知機能障害を明らかにすることで、より効果的なARMSに対する認知行動療法を検討していくことが目的である。平成24年度においては、ARMSの患者60名(男性:女性=22:38)を対象に認知的洞察のアセスメント(ベック認知的洞察尺度)、認知機能のアセスメント(統合失調症簡易認知機能検査:BACS、ウィスコンシン・カード・ソーティング・テスト:WCST)を実施した。その結果、ARMSにおいて認知的洞察が低下しているほど、WCSTのテストで測定される実行機能の成績がよくないことが明らかになった。とくに、自己の体験や考え方に対して過剰な確信をもつ自己確信性の得点が高いほど、WCSTの達成カテゴリー数が少なく、保続エラー数が多かった。一方で、認知的洞察の得点と、BACSで測定される認知領域(言語記憶、ワーキングメモリ、運動機能、言語流暢性、注意と処理速度)との関連はみられなかった。以上の結果から、ARMSにおける認知的洞察の低下、とくに自己の体験や考え方に対する過剰な確信の背景には、思考の柔軟性に関する実行機能の低下が関与していることが示唆された。以上の結果は、第16回日本精神保健予防学会で発表しており、現在、学術誌への投稿に向けて準備中である。
2: おおむね順調に進展している
精神病の発症リスク状態者(ARMS:At-Risk Mental State)60名分のデータ収集を終えており、分析を進めていく上で必要な数が順調に集まっていると考えられる。また、海外の学会に参加したり、文献を集めることで、当該領域の情報収集も十分に行えている。
精神病の発症リスク状態であるARMS(At-Risk Mental State)を対象とした研究については、今後も対象者数を増やしつつ、公表に向けて論文化していく予定である。また、健常者との異同を検討する上で、健常者に対しても同様のアセスメントを実施し、認知的洞察と認知機能の関連プロフィールを明らかにしていく予定である。
引き続き、当領域の研究の最新の動向を知るための情報収集をするための旅費や、研究成果の発表のための学会参加のための費用を必要とする。また、より効率よく被験者を募集していくために、一度に複数人に対して検査を実施できるよう認知機能検査用コンピューターや症状評価マニュアルを購入していく予定である。その他、高度な解析を行うために統計解析用コンピューターや統計解析ソフトも必要であると考えられる。次年度使用額は、今年度の研究を効率的に推進したことに伴い発生した未使用額であり、平成25年度請求額とあわせ、平成25年度の研究遂行に使用する予定である。
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