認知行動療法(Cognitive Behavior Therapy; CBT)は,自分の思考・感情・身体的反応・行動のつながりを症状との関連で理解できるようにメタ認知を強化し,患者自身が自ら,自身の症状にまつわる非機能的な認知や行動をコントロールできるように働きかける心理療法である.近年では古典的なCBTに工夫を加えることで,従来効果がないとされていた,統合失調症やパーソナリティ障害などの疾患に対する治療効果も得られている. Young(1990)のスキーマ療法(Schema Therapy; ST)は,そのひとつである.STの治療仮説は,生得的特徴や幼少期の体験により構成される過度に一般化された認知体系である「早期不適応スキーマ」を理解し,変容することで,早期不適応的スキーマからのストレスに対するレジリエンスを向上させようというものである.既に,国外ではGaus (2007)が成人のASD患者に対してスキーマの変容を取り入れたCBTの実践報告をしている.しかし,現在まで,成人ASD患者に対するSTの国内外の科学的実証研究に基づく治療効果についての報告はおろか,治療の中心として想定されるべき早期不適応スキーマについての検討も未だなされていないのが現状である. 本研究では、スキーマ療法の概念である「早期不適応的スキーマ」と自閉症の特性の関連を調べた。被験者は、健常群350名、自閉症スペクトラム群50名において調べられた。その結果、自閉症の特性は「早期不適応的スキーマ」を媒介して精神的健康に影響を及ぼしていることが明らかとなった。本研究はPsychology Reserch誌に受理されて、来月5月に刊行予定である。本研究により、自閉症スペクトラム障害患者の治療においては、「早期不適応的スキーマ」をターゲットとすることができることが示唆された。
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