研究課題/領域番号 |
24730582
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
樋口 匡貴 広島大学, 教育学研究科(研究院), 准教授 (60352093)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | HIV感染予防 / コンドーム / 羞恥感情 / 介入 |
研究概要 |
本研究課題は,HIV感染予防にとって現実的かつ効果的な対策であるコンドームの適切な使用を促進させる介入プログラムの開発を目的としている。 平成24年度には,映像を用いたコンドーム購入時の羞恥感情低減プログラムの効果検討を行った。申請者のこれまでの研究によって,コンドーム購入時の羞恥感情を低め購入行動意図を高めるには(1)恥ずかしそうにコンドームを購入する人物,(2)堂々とコンドームを購入する人物のそれぞれの映像の提示が有効であることがシングルケースデザインの研究によって示されている。この手法は認知行動療法におけるビデオフィードバック法の応用である。そこでこれらの内容を含む映像をウェブページ上にて提示し,効果を無作為化比較試験によって検証した。 具体的には,20~25歳の男女643名に対して,事前測定,介入および直後測定,フォローアップ測定(介入の約2ヶ月後)の3回にわたる追跡調査を行った。対象者は,(1)映像提示を行ったVTR介入群,(2)パンフレットの提示を行った知識介入群,(3)何も介入を行わない統制群の合計3群に分割された。これらの手続きは,いずれもインターネット上のウェブページにて行った。 各群の得点に対する分析の結果,VTR介入群においては事前測定と介入直後測定,事前測定とフォローアップ測定のと間でそれぞれ羞恥感情が有意に低減していることが明らかとなった。この羞恥感情低減効果については,知識介入群および統制群においてはみられなかった。また,コンドーム購入に関する自己効力感は,VTR介入群において顕著な増加効果が明らかとなったが,コンドーム購入行動意図については介入による効果はみられなかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
HIV感染予防にとって現実的かつ効果的な対策はコンドームの適切な使用である。本研究課題では,コンドームの適切な使用にとって重要な段階である「購入」と「使用」を阻害する主要な心理的要因である「羞恥感情」および羞恥感情の「認知的発生因」に注目した。そしてコンドーム購入時・使用時に生じる羞恥感情を低減させ,購入・使用を有効に促進させる介入プログラムの開発を目的としている。 本研究の最大の特徴は,①認知的発生因に介入することで,羞恥感情のみを低減するプログラムよりも効果が持続すること,②ウェブ上で参加できるプログラムを作成することで,講義等を利用して行うプログラムよりも適用範囲が圧倒的に広まることの2点である。 平成24年度には,当初の研究実施計画通り,「研究1 映像を用いたコンドーム購入時の羞恥感情低減プログラムの効果の検討」を行った。検討を行った介入プログラムは,羞恥感情の認知的発生因に対する直接的な介入を試みたウェブ上で配布可能なプログラムであった。検討の結果,羞恥感情低減やコンドーム購入の自己効力感の増加に対してプログラムが一定の効果を持つことが認められた。 これらのことから,現在まで予定していたデータの収集はいずれも達成し,おおむね順調に進展しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
平成25年度および平成26年度には,「研究2 映像を用いたコンドーム使用時の羞恥感情低減プログラムの開発」ならびに「研究3 映像を用いたコンドーム使用時の羞恥感情低減プログラムの効果の検討」を行う。 申請者のこれまでの研究によって,コンドーム使用時の羞恥感情は男性においては評価への懸念が,女性においては行動指針の不明瞭さが原因となって発生することが明らかになっている。さらにこれらの変数は,“愛情提示の失敗懸念”(愛していないと思われるのではないか),“使用・提案方法の不明瞭さ”(どうやって使おうと言えばいいかわからない),“使用拒否懸念”(嫌だと言われるかもしれない),“雰囲気崩壊の懸念”(雰囲気が壊れるのではないかと思う)といった背景思考との関連が示唆されている。そのため,これらの思考に対して働きかける内容を含んだ映像を作成し,映像提示の効果を予備的に検討する(平成25年度)。現段階においては,(1)コンドーム使用により愛情を疑われるようなことはない,(2)パートナーも使ってほしいと思っている,(3)使用を依頼するための具体的な表現方法などの情報を含めた映像を作成する予定である。 具体的には,コンドーム使用経験のある成人男女各1名を対象としたシングルケースデザインによって効果を検討する。測定する主な指標は平成24年度における測定内容とほぼ同様である(コンドーム使用に関するものに変更)。さらにここで開発された映像素材を用いた介入の効果を,平成26年度に無作為化比較試験によって検討する。 また,研究1で効果を検討したコンドーム購入時の羞恥感情低減プログラムについて,更なる時間経過後の効果を平成25年度に検討する予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成24年度の研究1において効果を検討したコンドーム購入時の羞恥感情低減プログラムについて,更なる時間経過後の効果を検討する。データは研究1の研究対象者に依頼して収集する必要があるため,研究1で利用した調査専門会社経由で調査を実施することになる。平成24年度の未使用額90,000円はこのフォローアップ調査に充てる。なお,未使用額が生じた理由は,平成24年度における調査の実施費用が当初予定よりも安価で済んだためである。 平成25年度研究費については,当初予定通りの執行を計画している。具体的には「コンドーム使用時の羞恥感情低減プログラム」の開発に約10万円の使用を計画している。この大部分はプログラムの映像製作費である。 また平成24年度に行った研究1の成果を,日本社会心理学会(沖縄県),日本エイズ学会(熊本県),European Congress of Psychology(ストックホルム)にて発表する予定である。そのための旅費ならびに学会参加費用として約50万円を予定している。
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