平成27年度は、フォローアップが未完であった慢性疼痛患者を対象として、症状維持モデルに基づく認知行動療法プログラムの長期的効果について検討した。効果は、質問紙調査での臨床症状と心理学的側面に対する主観的評価とNIRS(near-infrared spectroscopy:近赤外線スペクトロスコピー)での脳機能評価の両側面で実施した。治療プログラム終了1年後までのフォローアップが完了した対象者は2名であった。主観的評価の疼痛強度、痛みに対する認知(破局的思考)、痛みに対する行動(恐怖回避行動)、疼痛に伴う生活障害は、2名ともプログラム前後で改善し、プログラム終了6か月後時点でのフォローアップ(FU1)と1年後時点でのフォローアップ(FU2)でも維持されていた。一方、脳機能であるNIRSは、脳酸素交換量について、1名はプログラム前に比べてFU1とFU2で有意に増加したが、もう1名は、プログラム前に比べてFU2で有意に減少した。つまり、前者の対象者は、プログラムを通して、血管内の脱酸素化反応が亢進したことを意味し、逆に後者の対象者は、脱酸素化反応が抑制したことを意味する結果が得られた。また、脳機能の変化は、プログラム終了一定期間後に観察されることが示唆された。 本研究成果より、開発した認知行動療法プログラムは先行研究で報告される従来の治療プログラムと比較して、主観的評価における臨床的効果が高く、有用であると考えられた。また、主観的評価で同一の改善を示していても、脳機能の活動変化としては方向性の異なる生理学的変化が生じる可能性が示唆された。生理学的変化の差異が示す臨床的意味、および関連要因の解明は今後の課題である。
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