健康な自己愛に関する概念化を行い、その測定法や操作法を提案し、実証的に検証することが本研究の全体的な目的である。平成26年度は、「自己を価値あるものとして感じたい」という自己愛的欲求を脱中心化するための方略が日常的にどのように表れうるのか、(1)自己愛的欲求の表現場面についての自由記述調査、(2)知人間の会話行動の観察・分析によってあらためて検討し、より精緻な概念化を試みた。また、多様な「価値」による脱中心化を促すことが自己愛にまつわる問題の緩和につながることが示唆されていたことから、(3)「価値」や「目標」を活性化することが自己愛的傾向を一時的にでも低下させうるかを、作動性(agency)や共同性(communion)にまつわる価値の筆記によって実験的に検証した。また脱中心化を価値の側面だけではなく、苦痛体験からの離脱(distancing)の観点から検証するため、(4)過去に経験した自己否定的体験を、自己没入的視点から想起するか、自己離脱的な視点から想起するかによって、体験の苦痛性が変化するかを検証した。これらの検討を元に、(5)健康な自己愛のあり方を測定する尺度の原案を作成し、慢性的に自己脅威事態に遭遇しやすいであろう就職活動生に調査を実施し、心身の健康への関連を検証した。これらの調査については今後追跡調査へと展開していく可能性もある。あわせて、(6)健康な自己愛の対概念となる病理的自己愛の尺度についても妥当性や信頼性を検証し、病理性の観点からもあらためて検討を加えているところである。現在、これらの検証結果を元に、理論モデルを構築しているところである。
|