研究課題
近年,他者とうまくかかわることが困難であるために,学業や職務に支障をきたす若年層の問題が深刻化している。本研究では,人前での不安や緊張を主訴とする社交不安障害に対して,ネガティブな刺激に過剰な意識を向ける認知的傾向を改善するための注意訓練プログラムを実施し,疾患の予防効果を検証することを目的としている。研究の2年目にあたる本年度は,注意訓練プログラムのパイロット運用を開始した。社交不安を測定する尺度において,平均値+0.5SD以上の得点を示した大学生11名(男性4名,女性7名)に対して,プログラムの試験運用を行った。対象者は実験群と統制群にランダムに割り付けられた。プログラムは,ニュートラルな表情刺激に意識を向けることが要求される課題操作を通じて,ネガティブな情報に過剰な意識を向ける傾向の改善をはかるものであった。週に1回,5分程度(練習試行10回+本試行160回)の訓練を行い,8回(毎週1回,計2カ月)のトレーニングの前後における変化を測定した。実験群・統制群にかかわらず,訓練の回数を重ねるにつれて,誤答率が下がり,反応速度の外れ値が減ることが示された。実験群に割り付けられ,現在までにトレーニングが終結した4名のうち,2名においては実験前後の社交不安得点に顕著な変化が見られたが,2名においてはほとんど変化が見られなかった。統制群においては,顕著な変化が見られた例はなかった。これらのことから,プログラムには一定の訓練効果があることが示唆された。今後はサンプル数を増やし,統計的な検討を可能にするとともに,プログラムに反応する対象者とそうでない対象者を弁別できる変数を特定することが必要であると考えられる。
3: やや遅れている
2013年10月~11月,及び2014年3月~4月にかけて,研究代表者の体調不良が続いたため,国際学会での発表や予定していた実験を急きょ取りやめた経緯があった。そのため,注意訓練プログラムは完成したものの,パイロット研究のサンプルが予定通り集まらず,現在8回のプログラムを完了した者が6名,実施中の者が5名であり,フォローアップデータも継続的に取りためている最中である。研究の最終年度を迎え,サンプル数を随時増やしていくとともに,フォローアップデータの収集を行うことが今後の課題である。
前年度に引き続き,社交不安の高い大学生のスクリーニング調査を行い,より多くの実験参加者を確保することに尽力する。同意の得られた者を実験群と統制群にランダムに割り付け,8週間のプログラムを実施し,その前後で効果検討を行う。主観指標だけでなく,スピーチ場面のビデオの分析を行い,行動的な変化についても記述する。併せて,3ヶ月後,6ヶ月後の追跡調査を行い,訓練効果の長期的維持について検討する。
本年度11月にアメリカ行動療法学会での発表のため,海外出張を予定していたが,研究代表者の体調不良により,急きょキャンセルした。また,同時期に実施予定であった実験もキャンセルせざるを得なかった。このため,旅費・交通費として計上していた金額と,実験参加者に支払う予定であった謝金分の金額が差額として生じた。本年度生じた差額分は,次年度行われる国際学会の旅費・交通費として,また今後リクルートする実験参加者への謝金として支出する。研究計画それ自体に変更があるわけではないので,次年度申請分は当初の予定通り人件費や印刷費,論文別刷り代として使用する。
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Child Psychiatry and Human Development
巻: 45 ページ: 306-317
10.1007/s10578-013-0401-y