個別化医療を目的とするがんゲノム医療は、2019年6月から保険診療として開始している。国立がん研究センター中央病院では、先進的にがんゲノム医療の実装に取り組んでおり、2012年よりプロジェクトが開始していた。TOP-GEARプロジェクト「NCCオンコパネルを用いたがん遺伝子プロファイリング研究」第2期では、Matched-Pair解析を採用しており生殖細胞系列病的バリアントの特定が可能である。昨年度から本年度は、当該プロジェクト第2期における生殖細胞系列病的バリアント検出症例の特徴および転帰から、二次的所見(生殖細胞系列の病的バリアントの検出)が認められた人における心理的影響を調査する事を目的とし、カルテ調査研究を中心に実施し、論文化を行った。 2016年5月から2018年3月までに「NCCオンコパネルを用いたがん遺伝子プロファイリング研究」参加に同意し、生殖細胞系列に病的バリアントが検出された患者を対象とし、診療録より抽出した情報について集計・解析を行った。遺伝子解析結果が主治医に報告されたのは556名であり、そのうち13個の遺伝性腫瘍責任遺伝子に病的バリアントを認めたのは20名(3.6%)であった。生殖細胞系列バリアント開示対象外である小児1例を除く19症例中、遺伝相談外来を受診したのは10症例であった。当院遺伝相談外来未受診の9症例は体調不良が主な未受診理由であったが、今はこれ以上のことを考えたくないとする心理的な負荷が存在することも示唆された。また、受診した患者の心理的負荷について診療録より検討したところ、二次的所見の存在については「仕方ない」「どうしようもない」「(家族歴から)そう思っていた」という思いを抱く患者が多く、強い拒絶は認めなかった。 本研究は、今後ますます盛んとなる個別化医療(特にゲノム医療)を受ける患者の心理的支援を考える一助となることが期待された。
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