今年度は、成人期の海外渡航者について、計34名の縦断調査を開始し、1ヶ月、3ヶ月、6カ月、12か月時点での質問紙調査およびインタビュー調査を実施した。うち15名は調査を終了した。尺度については、過去に実施した28名の青年期群の結果を分析し比較を行った。 1)異文化適応感 標準化された尺度に基づき、言語文化的側面、学業・仕事などの面、心身の健康、滞在国の人々との親しむホスト親和という4側面について検討しているが、全般的に青年群の方が成人群より高い傾向にある。特に言語文化やホスト親和は留学生のほうが高かった。同じ成人群でも、渡航理由が仕事と家族理由では家族理由の場合の方が初期に低くなり、その後同程度になる。家族理由はすべて女性であり、それまでの仕事を辞めている者がほとんどであった。 2)自我アイデンティティ 標準化された尺度に基づき、斉一性・連続性、対自的、対他的、心理社会的の4側面について検討しているが、全般的に成人群の方が青年群に比べて高い傾向にある。青年群は国内在住の青年群の得点よりも高い値を示していたが、6カ月地点で下がり再び上昇する特徴がみられた。一方、成人群はどの側面もそうした揺れがなく安定していた。有意差はないが少しずつ得点は上昇していた。 3)民族アイデンティティ 標準化された尺度に基づき、探索と愛着の2側面について検討しているが、探索の面は青年群の方が成人期群よりもおおむね高いことが分かり、愛着の面は逆に成人群の方が青年群よりも高い値で安定していた。 4)インタビュー調査による検討 成人群へのインタビューでは、安定した自己概念の語りが多く、海外渡航前後でもあまり変化の自覚は見受けられなかった。また民族アイデンティティに関する問いについても、愛着が初めから自覚され、探索する傾向は低く、あまり変化しないことが全体の特徴として見出された。
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