自己愛傾向の高い個人は自分の怒りの正当性を過度に高く評価するため、対人葛藤のエスカレーションが生じやすくなる。本研究ではこの現象を「自己愛性対人葛藤」と呼び、夫婦を対象とした質問紙調査によるペアデータや二時点データを分析することで、自己愛性対人葛藤の抑制要因を解明することを目的としている。 24年度に実施した質問紙調査(調査Ⅰ)では、自己愛傾向が高いほど夫婦ともに怒りを表出しやすくなり、また相手から怒りを表出されることによって自分も怒りを感じやすく、それが夫婦関係満足を低下させることが明らかとなった。その一方で、ユーモア対処は、怒りの表出を抑制することが示された。さらには自己愛傾向とユーモア対処との間には正の相関が確認されたことから、自己愛傾向の高い個人がユーモアによる対処方略を獲得することで、夫婦間葛藤につながる怒りの表出を抑制できる可能性が示唆された。 26年度は、この調査Ⅰの結果をもとに、2週間程度の間隔をあけた二時点調査(調査Ⅱ)をオンライン上で実施した。事前・事後調査の間にユーモア対処を高めるための課題を実施するグループと実施しないグループを設定し、ユーモア対処がトレーニングによって獲得可能なスキルであることや、ユーモア対処と自己愛性対人葛藤との因果関係を明確にすることを目的とした。 27年度は、調査Ⅱのデータ分析を行い、限定的ではあるがユーモアトレーニングの有効性を確認することができた。調査Ⅰおよび調査Ⅱの成果を学会発表にて報告し、論文投稿を行った。
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