心的イメージの生成過程を解明することは,イメージ研究の中心的なテーマの一つであり,現在までイメージ過程を説明するモデルがいくつか提唱されている。さまざまなモデルに共通するメカニズムとして,イメージを生成すると,長期記憶(LTM)内に貯蔵されている情報が,イメージを生成する機構に移行(転送)され,そこでイメージが形成されるというものがある。近年,このLTMとイメージを生成する機構の間に,移行される情報の量を調整する心的機能(具体的には移行される情報量を抑制する機能)の存在が示唆されている。 また,イメージ想起中に,外界から入力された視知覚情報の処理を抑制する心的機能の存在も近年指摘されている。これは,イメージを鮮明に思い浮かべるために閉眼するという方略が日常的に用いられることなどからも推測されるように,視知覚情報の入力は,イメージの形成を妨害するため,イメージ想起中はそれを自動的に抑える機能が働くのではないかという考えによる。上述した機能の実在性が示されれば,それらの機能を加味したイメージ生成モデルの構築が必要であることを意味し,またそれはイメージ生成過程をより詳細に解明することにつながると考えられる。しかしながら,現段階では前述した両機能の実在性は,思弁的に推測されているのみであり,実証的には検証されていない。 本研究は,大きく以下2つの研究計画からなる。すなわち,1)イメージを生成を抑制する心的機能の実在性の検証,2)イメージを生成中に,外部から入力される視知覚情報の処理を抑制する心的機能の実在性の検証,である。昨年度までに,1)の機能を担う脳部位を特定する脳イメージング実験を実施した。本年度は,2)についての行動実験,および,その実験デザインを基にその機能を担う脳部位を特定する脳イメージング実験を実施した。さらに,1)の成果をまとめ,学術論文として発表した。
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