社会的存在である人間は他者との様々なやり取りの中で人間関係を記憶・学習していく。本研究の目的は、人間関係における報酬や罰のやり取りがその相手の記憶に与える影響の脳内機構を機能的磁気共鳴画像(fMRI)により検証することである。 最終年度は (1)ヒトから報酬や罰を受けることが記憶に与える影響とその神経基盤、(2)ヒトに報酬や罰を与えることが記憶に与える影響とその神経基盤の2つの研究を進めた。(1)と(2)の研究より、ヒトから報酬や罰を受けたり与えたりする方がヒト以外のものから報酬や罰を受けたり与えたりするよりも意図の推論を行い、報酬をよりポジティブに罰をよりネガティブに感じることが示された。また、(1)の研究では、ヒトから報酬を受けることによって記憶が促進され、そのような記憶の促進には記憶関連領域である側頭葉内側面と相手の意図の推論に関連する領域である側頭頭頂接合部の相互作用が関連していること、 (2)の研究では、ヒトかヒト以外かにかかわらず報酬や罰を与えることによって記憶が促進され、そのような記憶の促進には記憶関連領域である側頭葉内側面と情動関連領域である扁桃体の相互作用が関連していることが示された。これらの研究で得られた成果は、北米神経科学会や日本神経科学学会、社会神経科学研究会などの国内外の学会で発表され、専門的な学術誌に発表するための論文化が進められているところである。 研究期間を通しては、これら2つの研究を含め5つの研究を行い、社会的ではない基礎的な処理からより高次な社会的な処理へと研究を発展させることにより、人間関係における報酬や罰のやり取りがその相手の記憶に与える影響の脳内機構を明らかにすることができた。
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