研究課題/領域番号 |
24730623
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
富松 江梨佳 九州大学, 芸術工学研究科(研究院), 学術研究員 (20584668)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 時間知覚 / 充実時間錯覚 / 時間拡張錯覚 / 視聴覚統合 / 運動知覚 / 実験系心理学 |
研究概要 |
内的時計の構造を、知覚心理学的手法を用いて調べ、歪みの生じる仕組みについて検討する。平成24年度は充実時間錯覚について調べる実験を行った。2つの短音で区切られた空虚時間と持続した音によって示される充実時間を呈示すると、物理的に同じ時間間隔であっても後者の方が長く知覚される。この充実時間錯覚が、視覚においても生じるかどうかを検討した。ランダムドットを刺激としてその平均輝度をとった背景上に2回短時間呈示することによって空虚時間を示した。判断すべき時間間隔は、刺激呈示の始まりから次の刺激呈示の始まりまでの時間とした。充実時間は、ランダムドットを持続的に1回呈示することによって示し、判断すべき時間間隔は刺激呈示の始まりから終わりまでとした。ディスプレイ上に150 から 900 msの空虚時間および充実時間のうちいずれかを標準刺激として呈示した。続いて比較刺激を呈示し、調整法によって主観的時間長を測定した。実験の結果、視覚によって示されたごく短い時間間隔においても充実時間のほうが空虚時間よりも長く知覚されることがわかった。再生法を用いた場合においても同様の結果を得られることが確かめられた。同じ実験参加者において聴覚刺激を用いた実験を行い、視覚での結果と比較したところ、過大評価が大きく生じた実験参加者は、視覚と聴覚では一致しなかった。また、視覚刺激を用いた場合の過大評価量と聴覚刺激を用いた場合の過大評価量との間に相関は見られなかった。実験結果から、視覚においても充実時間錯覚が生じることがわかった。一方で、視覚と聴覚のどちらかのモダリティにおいて錯覚が生じた被験者が、他方のモダリティにおいて錯覚が生じるわけではなく、また、過大評価量も相関しないことがわかった。これらの結果から、聴覚と視覚に共通の時間処理メカニズムが存在する一方で、モダリティ内での時間処理の構造が異なることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、対応する処理レベルや物理特性が異なる刺激によって構成された、1秒以下の時間間隔に対する知覚上の長さを調べ、時間知覚の歪みの有無や特性を比較することによって、時間知覚処理の階層性を考察することを目的としている。具体策として、以下の3つの現象について調べる。1) 充実時間錯覚:まず、時間間隔を成すシンプルな刺激(充実時間と空虚時間)によって生じる充実時間錯覚を調べ、内的時計の基礎的な構造を明らかにする。2) 時間拡張錯覚:本研究の主軸となる、運動視と時間知覚の関連性(時間拡張錯覚)を調べる。3) 視聴覚統合:1および2で検討した刺激について、視聴覚のクロスモーダル作用を検討する。以上の結果から、内的時計が処理段階のどこにどのように現れるかを考察する。このうち、今年度は1に関して実験を実施し、今後研究を進めるうえで有益な結果を得た。視覚刺激を用いた場合においても聴覚刺激を用いた場合と同様に充実時間錯覚が生じることが確かめられた。また、錯覚の生じ方について視覚と聴覚とを比較することによってモダリティ内もしくはモダリティ間の時間処理の構造について考察できる結果を得た。これらの結果は国内学会で発表済みであり、ここまでの結果をまとめて論文を執筆し国際誌に投稿する準備を行っているところである。これらの実験および成果の発表は、ほぼ当初の計画通りに実施できた。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、時間知覚処理の階層性についてしらべるため、充実時間錯覚に加えて、時間拡張錯覚および視聴覚統合について検討していく。得られた結果から、内的時計が処理段階のどこにどのように現れるかを考察する。次年度は特に時間拡張錯覚について重点的に調べる予定である。運動知覚と時間知覚について同時に実験を行い、関連性を調べる。例えば、静止図形を一定の時間呈示して錯覚的に運動印象を生じさせ、一方では、実際の運動をも呈示する。実験によって得られた結果をまとめ、学会での発表および論文執筆・投稿を行う。 具体的な方法として、時間拡張錯覚が起きるとき、運動は知覚される必要があるのかを検討する実験を実施することを予定している。運動する物体が呈示されたとき、静止した物体よりも長く出現していたように知覚される(時間拡張錯覚)。静止画でありながら運動知覚を生じさせる刺激を用いて、もしくは、運動残効を用いて、1秒以下の時間知覚の構造を調べる。次の4つの刺激に対して生じる時間知覚を比較する。A)物理的にも知覚的にも運動している(時間拡張錯覚が確実に生じる)。B)物理的には運動していないが運動を知覚する(運動錯視図形を物理的に静止させて呈示するなど)。C)物理的に運動しているが運動を知覚しない(錯視や残効を打ち消す方向に物理的に回転させて運動知覚をなくす)。D)物理的にも知覚的にも運動していない(時間拡張錯覚は絶対に生じない)。比較して得られた結果から、運動知覚がまずあり、それによって時間知覚が影響されるのか、それとも、運動と物体の呈示時間とは別々に処理されるのかを検討する。例えば、Bにおいて、時間拡張錯覚が起き、Cにおいては錯覚が起きないとき、運動を知覚すること自体が時間知覚に影響していることを意味する。すなわち、この結果は、知覚システムが運動を処理した後、その影響を受けて時間を処理していることを示す。
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次年度の研究費の使用計画 |
有機ELディスプレイを購入する予定であったが、今年度はすでに研究室に配備されているディスプレイを一時的に使用できる環境にあり、購入を見送ったために残額が生じた。また、効率よく実験を実施することによって当初の予定よりも実験時間を大幅に短縮できたため、人件費・謝金に残額が生じた。次年度以降ディスプレイは使用できない見込みであるため、この残額については新型の有機ELディスプレイおよび周辺機器を購入するために使用する。また、実験参加者や実験補助者への謝金としても使用する予定である。
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