研究課題/領域番号 |
24730630
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
中山 真里子 早稲田大学, 文学学術院, 研究員 (40608436)
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キーワード | 心的辞書 / 日英バイリンガル / 語彙表象 / 音韻表象 / 対訳語 / 国際情報交換 |
研究概要 |
本研究の目的は日英バイリンガルを対象に、2言語で表記体系が異なるバイリンガルの英単語の脳内表象仕組みをL2能力の影響に着目して検証するものである。平成25年度は、24年度から継続している2つのプロジェクトに加え、新たなプロジェクトを行った。 プロジェクト1は、表記の表象に着目したものであり、抑制的隣接語効果の検証である。24年度の研究では、バイリンガルと英語話者の英語の表記表象は質的に異なることが示された。25年度ではこの質的な差が、実験タスクに影響されたものなのか、両者の表記表象が本当に質的に異なるのかを追求するため、異なる課題下で検証した。現在までデータは、質的に異なることを支持している。この解釈をより強固にするために、26年度前半では、さらに2つの実験を行う予定でいる。 プロジェクト2は音韻レベルの表象に着目したものであり、Masked Onset Primingを指標とした研究である。24年度の実験では、英語力の高いバイリンガルは、発話時に英語話者と同じ音韻ユニット(音素)を使うことがわかった。25年度は音素単位のユニットを獲得したバイリンガルが、日本語の単語をモーラ、音素のうちどちらのユニットを介して発話するのか検証した。結果はバイリンガルは英語を音素単位で処理し、日本語はモーラ単位で処理することを示した。 プロジェクト3では、表記の違うバイリンガルの対訳語の表象を検証すべく、L1-L2の対訳語プライミング効果を指標に研究を行った。現在、外来語の対訳語(レモン-LEMON)の表象は、脳内辞書の中で統合されており、そうでない対訳語(左-LEFT)とは表象内容が質的に異なるという説と、外来語は音韻の類似性のみが異なるだけで、両者は量的に異なるという説が対立している。Nakayama et al.(2013)では後者の説をを支持したが、25年度は別の実験によりこの解釈の妥当性を示す研究結果を得た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今研究は複数のプロジェクトを同時進行で行っているため、日英バイリンガルの語彙表象を複合的な視点で検証することが可能となっている。 プロジェクト1については、表記の異なるバイリンガルのL2英語表記の表象がが表記の同じバイリンガル(e.g., フランス語ー英語)や英語モノリンガルのそれと質的に異なるという説は多くの研究者が推定する結果と異なるため、考えられうるConfoundingを自ら除去した後に発表したほうがより質の高い研究になるとのアドバイスを受けた。そのため、論文の発表は当初の予定より若干遅れているが、これまでの実験ではタスクによるconfoundではないことが示されているので、研究は順調に進んでいると評価できる。 プロジェクト2については、24年度で、今後の研究の推進方策で計画した実験を遂行し、結果をまとめた論文の採択が決定したことから、順調に進捗している。 プロジェクト3については、今回得られた結果はNakayama et al. (2013)の研究結果と整合的なものであり、すでに国際誌に投稿し、レビューを経て現在改稿中である。レビューは概ね良好であり、大幅な改稿も必要とされていないことから採択の見込みが高い。従ってこのプロジェクトも順調に進展していると評価できる。
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今後の研究の推進方策 |
今年度が最終年度になることから、第一の目標は、プロジェクト1を終了させ、その結果を公表することである。Counfoundの可能性となる要素の内、1つの可能要素は排除済みであり、2つ目の可能要素も排除可能である見込みが高い。最後の要素の検証は今年度の前半までに終了する見込みであり、これを経てこの論文を発表することを最優先したいと思っている。 また、日英バイリンガルの語彙表象の仕組みを探るために、国内外の研究者と共同で、対訳語間の関連する意味の強度、具体性/抽象性などがバイリンガルの脳内辞書でどのような影響を与えるのかについての研究を行うことを計画している。
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次年度の研究費の使用計画 |
採用一年目で予定していた海外でのデータ収集を当該実験に使用する実験提示プログラムを作成した研究者がすべて行ってくれたため、海外旅費分の使用計画が一年目から繰越されていることに加え、前年度行った研究でよい研究データが収集できたため、当初予定していた計画より少ない実験数でプロジェクトを終了することできたため。 1.今年度も、研究費の大部分は、実験を推進するための被験者謝礼、研究補助者の人件費に使用する予定でいる。2.また、研究施設以外でもデータの解析を行える環境を整えるため、統計解析ソフト(SPSS)を購入予定。3.国際誌に論文を投稿するプロセスを短縮するため、英文校正サービスを積極的に利用する。4.国内外の学会で研究発表を行う為、旅費として使用する。
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