研究課題
雄性のC57BL/6Nマウスを被験体とする水迷路学習実験の場面において、プラットホームのサイズとプールの周囲の環境を操作して課題の難度をある一定の水準以上に設定すると、一部の被験体が、プラットホームへの速やかな逃避という適応的対処行動の学習を徐々に放棄し、遂には行動的絶望状態に陥る(欝モデルマウス作製法(特許第4619823号))。我々は、これらの個体をLoser、対して、良好な学習を示す個体をWinnerと命名した。本研究では、水迷路学習訓練における強化・非強化(逃避の成否)の履歴を操作した実験を行い、Loser化における学習性の要因について検討した。その結果、訓練の初期において、逃避成功試行と逃避失敗試行が混在する履歴を経ることが、全ての試行で逃避失敗を経験するよりもむしろ重篤な行動的絶望状態を誘発することが明らかとなった。この結果は、Loserの行動的絶望状態が、水泳処置による無条件性のストレス反応ではないことを示唆している。次に、Loserに対する抗うつ薬長期継続投与実験を行った。Loserに選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)のひとつであるフルボキサミンを十分に長いと判断される24日間連続して投与した。その結果、Loserの行動的絶望状態は顕著に緩和され、抗うつ薬なしで適応的対処行動の学習を示すWinnerに匹敵する状態にまで回復した。更に、フルボキサミンを投与したLoserでは、海馬歯状回における神経細胞の新生数が、比較対照のLoserより有意に多く、Winnerと同水準であった。この結果は、Loserの頑健な行動的絶望状態の背景に海馬の神経細胞新生の抑制があることを示唆している。
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