研究概要 |
本研究は,快と不快表情に対する模倣の心的過程を心理生理学的に明らかにすることを目的としている。他者の表情観察時に生じる表情筋活動は大別して以下の2つに由来する。1つ目は,コミュニケーション機能としての模倣反応である。2つ目は,他者の怒り表情に対して恐怖が表出されるというような感情反応である。本年度は,他者の表情に対する表情表出における模倣反応と感情反応の差異を明らかにする目的で,感情反応としての表情筋活動パターンについて検討を行った。表情筋電図法(facial electromyopraphy: EMG)を用いて,快と不快画像を時系列的に組み合わせた刺激系列に対する表情表出を計測した。その結果,不快感情によって高まった皺眉筋活動は,快画像を呈示することにより低減することが示された。感情反応による表情筋活動は感情的な文脈の影響を受けることが明らかになった。 また,模倣反応の心的機能を検討するため,動画表情と静止画表情に対する模倣反応を検討した先行研究(Sato, Fujimura, & Suzuki, 2008; Fujimura, Sato, & Suzuki, 2010)のデータの再解析を行った。表情に対する表情筋活動と感情経験および表情認識の心理指標の関係について共分散構造分析を用いて分析を行った結果,動画表情については,表情筋活動によって快か不快かといった感情経験が生じ,その感情経験が表情認識を促進するという因果モデルが支持された。この結果は,表情表出が他者理解というコミュニケーション機能の一端を担っている可能性を示唆している。
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