今年度は,これまでの研究成果をとりまとめた。これまでの結果から,ポリグラフ検査の認知過程は,隠匿情報の再認に関する過程と,再認したことを隠蔽することによる過程の2つから構成されることがわかった。それぞれの認知過程に対応する脳波・事象関連電位・自律神経系反応から,再認過程は,情報提示から約200 ms後に生じ,隠匿情報の重要性によって生じる定位反応を反映すること,隠蔽過程は,情報提示から約500 ms以降に生じ,付加的な認知処理や制御的処理を反映することがわかった。さらに,隠蔽過程に対応する脳部位から,情報を隠そうとすると回避動機づけが生じ,それと関連して生理反応を抑制しようとする処理が生じるといった,より詳しい認知過程が示唆された。 これらの研究結果と,先行研究の知見を合わせて,ポリグラフ検査の認知過程モデルを提案した。認知過程モデルについて言及した総説は,心理学評論に掲載された。同様の内容は,Elsevier社から発刊予定の書籍「Detecting Concealed Information and Deception」(Peter Rosenfeld編)の中の一章として掲載される予定である。また,国際学会において「Beyond lie detection: Applications of the concealed information test to different fields」と題したシンポジウムを企画し,本研究の成果を発表した。さらに,筑波大学において,「犯罪捜査と脳科学:ポリグラフ検査から見た現状と課題」と題した講演も行った。
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