本研究はセロトニンニューロン選択的チャネルロドプシン2発現マウスを用い、報酬獲得及び罰回避行動課題遂行中のセロトニンニューロン活動を光刺激により人為的に操作するというオプトジェネティクスの技術を利用し、セロトニンの行動制御における機能的役割について検証することを目的として計画された。これまで申請者らの先行実験から「将来の報酬のための待機行動」にセロトニンが関わるとの見解を得ている。この妥当性を更に検証すること、さらに従来の「将来の罰・嫌悪をもたらす行動の抑制」という見方を本研究で併せて検証することで、報酬と罰、双方が予測される際の行動制御におけるセロトニンの役割について明確にする。研究期間内において特に報酬に関して良好な結果を得た。具体的には、1 将来の報酬のための待機行動中にセロトニンニューロンを人為的に活動させると待機行動は延長されるのか。2 目的のために辛抱強く「待つ」のではなく「行動する」場合、セロトニンニューロンを人為的に活動させるとどんな影響があるか。という2点について検証した。この結果1において、セロトニンニューロンを人為的に活性化させると待機行動が延長する、という我々の仮説に合致した結果を得ており、これらの内容について現在論文投稿中である。また2についても興味深い結果を得ており、引き続き実験を継続中である。本研究の意義として次のことを示したい。従来技術的な制約により困難であったセロトニンニューロン活動を正確に行動下で制御することができれば、行動制御におけるセロトニンの明確な役割、ひいては衝動性を生み出す神経基盤にどのように関与するのか、より具体的に調べることが可能になる。今後さらに行動課題のバリエーションを増やし、本研究に基づいて有用な脳機能モデルを提案できれば、衝動性に関わる様々な精神疾患治療に向けた取り組みに神経科学の分野からの貢献ができると考えている。
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