本研究では,保育者養成期間中に子どもの状況に基づいて一斉保育の描画指導案を作成しようとする態度が十分に形成されていないという課題に基づき,そのような態度を学生に形成することを目的とした。そのために,デザイン分野で活用されるユーザ中心のデザイン手法であるペルソナ/シナリオ法を実施した。また,そのような態度が学生に身についたことを評価するためのルーブリックを作成した。その結果,ペルソナ/シナリオ法を受けた学生は,受けていない学生と比べて,「子どもたちが興味関心を持っている遊びをイメージできる」と「一人ひとりへのかかわりをきちんと考えることができる」の規準で高い評価を得る傾向が明らかになった。前者の評価規準は,子どもが今現在,何に興味を持ち,何をしようとしているのかなどの子どもの生活する姿を把握しているかどうかについての規準である。この規準について高い評価を得るということは,子どもの状況をきちんととらえようとしていることの現れであり,子どもの状況に基づいて一斉保育の部分指導案を作成することにおいて重要なものの一つである。また,後者の「一人ひとりへのかかわりをきちんと考えることができる」という評価規準は,子どもの状況に基づいて指導計画を立て,それを実施するための詳細な配慮ができているかどうかを評価する規準である。この規準について高い評価を得るということは,子どもたち一人一人の目線に立ってかかわりを考えようとする思いを持って一斉保育の部分指導を作成しようとしている姿の現れであると考えられる。これらの結果から,座学が中心で子どもとかかわる機会の少ない学生がペルソナ/シナリオ法を体験することで,座学の中でも子ども一人ひとりの個性や多様性に配慮する思考を働かせる体験を持つことができ,一人の保育者として子どもたちの姿をとらえる経験を得ることができたといえるだろう。
|