研究課題/領域番号 |
24730651
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研究機関 | 山梨大学 |
研究代表者 |
伊藤 亜希子 山梨大学, 大学教育研究開発センター, 助教 (70570266)
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キーワード | ドイツ / 異文化間教育 / 青少年教育 / 差別 / 多文化社会 |
研究概要 |
本研究は、多文化社会ドイツにおいて排除と共生の葛藤の狭間に見られる差別や偏見、レイシズムへの対抗手段としての青少年教育活動について、その内実を明らかにすることを目的としている。 本年度は2012年度の調査を踏まえ、7月と12月に現地調査を実施した。まず、7月の調査では、「レイシズムのない学校」プロジェクトについてNRW州北部を中心とした地域レベルにおける取り組みに着目し、活動の中心を担った生徒、それを支えた青少年教育関係者、活動に参加する学校間の交流や研修を企画する統合センターおよび協力組織担当者にインタビューを実施した(調査地:ライネ、ビーレフェルト、フロトー)。特に生徒へのインタビューから、学校のプロジェクトから他校と連携した「レイシズムのない街」プロジェクトへと活動を展開させた青少年の意識が明らかになった。また、プロジェクトに参加する青少年に対する研修を行っている協力組織でのインタビューでは、極右の活動や排斥、ステレオタイプについてワークショップを通して学ぶ機会を提供し、学校間の生徒のネットワーク構築を目指していることが明らかになった。 12月の調査では、アンネ・フランク・センターが作成した新たな巡回展パネルが差別と偏見についての教育活動に如何に活用されているのか、青少年を対象としたガイドトレーニングへの参与観察を通して明らかにした(調査地:ミュンスター)。そこでは、ナチス・ドイツの過去と多様な背景を持った人々が暮らすドイツ社会の現在の人権課題に取り組む際に、他者認識と自己認識のずれや承認をキーワードに青少年に深く考えさせていた。 なお、2012年度の調査結果や文献研究の一端として、「レイシズムのない学校」プロジェクトを多文化社会ドイツにおける青少年の異文化理解を促す体制づくりにつながる事例と捉え、異文化間教育学会(於日本大学)において発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、現在のところおおむね順調に進展している。研究実績の概要にも示したとおり、ドイツにおける事例を通して、異なる文化的背景を持った人々の排除と共生の葛藤という、多文化社会における共生の課題に取り組む青少年教育活動に注目している。 当初計画していたとおり、2年目はプロジェクトに参加している学校や地域への現地調査を実施するため、2012年度に実施した資料収集やインタビュー調査で得られた情報に基づき、具体的な調査地(ライネ、ビーレフェルト、ミュンスター)と調査日程(7月、12月)を設定した。併せて、NRW州コーディネーターへのインタビュー調査の継続、地域におけるコーディネーターや差別や偏見、レイシズムに関する青少年教育活動を展開する上での協力機関への訪問調査も実施した。 他者との共生という課題について、主として青少年教育を提供する側が何を意図し、どのようなリソースを活用しながら教育活動を展開しているのかという点については、コーディネーターや協力機関への訪問調査によって、連携組織の多様さや連携のあり方についての情報、青少年教育を展開する上で日常的なレイシズム(とりわけ、イスラモフォビア、ホモフォビア)が課題となっていることなど具体的情報が得られた。また、本年度の調査では、インタビューや参与観察で直接プロジェクトに参加する青少年と接し、かれらの意識や実際の声を捉えることができた点は非常に有益であった。 本研究課題の総括に向けて、本年度の2度の現地調査終了後は、インタビューの書き起こし、収集資料の整理・分析を進めている(継続中)。
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今後の研究の推進方策 |
2012年度、2013年度に実施した調査結果を基に、2014年度は以下の通り研究を進めていく。 第一に、これまでの現地調査から、「排除と共生の葛藤に学ぶ教育」についての事例の具体像が明らかになっており、ドイツの異文化間教育論における反人種主義教育についての議論等と併せて、この教育活動の理論的位置づけを行う。それにより、「排除と共生の葛藤に学ぶ教育」についての分析枠組みを検討する。 第二に、調査研究を進めた具体的事例の教育内容、教育手法について、「排除と共生の葛藤に学ぶ教育」として如何なる点が青少年の学びの促進に至っているのか提示する。アンネ・フランク・センターによる教育活動の事例については、2012年に新たに作成され、2013年度に参与観察を行った新たな巡回展パネルを用いたガイドトレーニングや参加型活動に焦点化して整理する。「レイシズムのない学校」プロジェクトについても、同様に2013年度に調査を実施したライネにおける事例に焦点化する。 第三に、上記2点を進めて得られた成果について、アンネ・フランク・センター担当者のWeber氏、「レイシズムのない学校」プロジェクト連邦コーディネーターのKleff氏、NRW州コーディネーターのBonow氏、ビーレフェルト市コーディネーターIsfendiyar氏らのレビューを受け、研究協議を行う(訪問地:ベルリン、ケルン、ビーレフェルト、調査時期:9月上旬を予定)。 特に「レイシズムのない学校」プロジェクトについて、申請時の計画では連邦コーディネーターからのレビューのみを予定していたが、地域レベルにおける展開のための連携等についてはNRW州コーディネーターや都市のコーディネーターの見解が求められることから、これらを追加している。以上を実施し、3年間の研究を総括した成果報告書を作成する。
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