研究課題/領域番号 |
24730657
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研究機関 | 香川大学 |
研究代表者 |
松本 博雄 香川大学, 教育学部, 准教授 (20352883)
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キーワード | 文字 / 幼児 / リテラシー / 保育 / 絵本 |
研究概要 |
本研究の目的は、子どもの文字機能に対する自覚および日常生活における使用実態という側面に着目し、学童期初期と幼児期における両者の質的な相違およびその間の変化のプロセスを検討することであった。このことをふまえ、本研究ではまず、リテラシー獲得が開始される幼児期後半における具体的場面での文字使用の資料を収集し、幼児ならではの文字の使用実態とその機能、それを成り立たせている条件を捉えることを試みた。 保育所・幼稚園4~5歳児のべ54名を対象に、保育現場での「絵本作り活動」を用いた実験および保護者への質問紙調査によって示されたのは、文字獲得の初期である幼児期後半において、個々の文字を書けることと、それを媒体として使えることの間に一定の時間の隔たりが存在することである。また、絵本作成課題と保護者へのアンケートを通じて明らかになったのは、幼児期における文字使用の獲得水準は、文字への関心や書きそのものの開始時期、家庭における文字指導のスタイルなど、一般によく着目されるリテラシー獲得の諸側面を必ずしも直接的に反映していないということであった。 ここからは幼児にとっての文字獲得とは、単に一人の子どもが一つ一つの文字を正確に覚えるという活動として構成されていくものではなく、正確に読み書きできる前段階も含めた“文字”の機能を、他者とのやりとりに埋め込まれたかたちで実感していく活動として構成されゆくものだと考えることができる。このことは初期リテラシー(Emergent literacy)の獲得を支えるにあたって、それがどのような環境に支えられて成り立っているかに着目する近年の諸研究の方向性とも重なる。 なお、研究方法論の理論的整理と調査データの解釈にあたり、研究協力者として伊藤崇氏(北海道大学大学院教育学研究院・准教授)・常田美穂氏(香川短期大学・講師)の助力を得た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
文献検討と保育所ならびに幼稚園現場での調査を経て収集されたデータを分析したうえで、関連学会(日本教育心理学会)で報告し討論を行った。またこれまでの研究にて収集した、幼児期のリテラシー発達を支える音韻意識についてのデータとのリンクを分析したうえで、関連学会(American Psychological Association)にて報告し、討論を行った。必要な分析をおおむね終えたこれらの資料について、現在関連学会誌に論文投稿の準備中である。学童期についてのデータ収集および幼児期と学童期の比較データの分析結果を国内外に報告したうえで検討を進めることが今後の課題となる。(達成度60~70%)
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今後の研究の推進方策 |
リテラシーの獲得を多面的に描き出すという観点から、別手法での保育所・幼稚園現場での調査を継続するとともに、学童期のデータ収集を進め、個々の幼児がどのように道具としての文字を使えるようになっていくかのプロセスを示すことを試みる。 また本研究で収集したデータについて関連学会(国外: United Kingdom Literacy Association 50th International Conference.)にて報告し、他言語との比較という観点から本研究の成果を位置づけるとともに、論文投稿の準備を進める。
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