本研究の目的は、子ども自身が文字を使いたくなる機会にいかに巻き込まれ、実際にそれを使っていくかという観点から、文字機能に対する自覚および日常生活における使用実態に着目し、幼児期と学童期初期におけるその質的な相違を検討することであった。このことをふまえ、本研究ではリテラシー獲得が開始される幼児期後半における具体的場面での文字使用の資料を収集し、幼児ならではの文字の使用実態とその機能、それを成り立たせている条件を捉えることを試みた。具体的には保育所・幼稚園4~5歳児のべ54名を対象に、絵本の作成とそれに基づく語り課題、および子どものリテラシー獲得水準と文字環境に関する保護者への質問紙調査を設定して実証データを収集した。 その結果示されたのは、幼児期後半においては学童期とは異なり、従来型のテストで測定される読み書き指標が、日常場面で文字を媒体として使用する姿に必ずしも反映されないこと、またより早期の文字に対する関心や、読み書きできる文字数の多さが、文字を使った実際の表現や、それを経ての文字機能の自覚へとただちに結びつくわけではないことである。これらをふまえると、幼児期において初期リテラシーの獲得を支える際に、文字知識が正確に獲得されたか否かだけではなく、幼児自身がその力を発揮したいと感じられる場をセットで準備できているかに注意を払うことが欠かせない、という視点へと結びつく。さらにここから、多様な背景をもつ家庭環境においてそのような場がどの程度保障されているかを探るとともに、それを補う存在である就学前から就学初期の教育プロセスにおいて、それを具体的に準備することがいかにして可能になるかを検討するという次の課題を導くことができよう。
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