研究課題/領域番号 |
24730663
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研究機関 | 滋賀県立大学 |
研究代表者 |
篠原 岳司 滋賀県立大学, 人間文化学部, 准教授 (20581721)
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キーワード | 教育ガバナンス / 学習する組織 / 分散型リーダーシップ / シカゴ |
研究概要 |
平成25年度は以下の研究実績をあげた。 第一に基礎研究領域では、教育ガバナンス論の理論的再構築に関わり学会誌に投稿した論文の採択を得た。論文では、民主的な正統性を持って教育的価値を実現するガバナンスを構築する上で、教育専門職と保護者らの共同的な学習組織が鍵を握ることを解明した。その他、分散型リーダーシップや学習する組織にかかる諸研究の文献収集を進め、引き続き諸研究の検討を続けている。 第二に比較研究では、シカゴおよびニューヨーク市の訪問調査を行った。シカゴでは、民間の教育シンクタンクStrategic Learning InitiativeのJohn Simmons氏と面会し、教育困難を抱える大都市部の公立学校において学校改善を着実に進めてきた学校事例の選定と、インタビュー先の紹介を得ることができた。その結果、某小学校の校長との面会がかない、公教育の民営化と市場化による公立学校改善とは真逆の、保護者と教職員の学習を基盤とした互いのエンパワーメントと教育的価値の合意形成に基づく学校改善の事例を確認することができた。今後、このインタビュー結果の文章化と共に、学校訪問と校長以外の関係者への面接調査を行い、事例の多面的な把握と理論化を試みる予定である。ニューヨーク市では現地研究者と面会し、本研究課題に関わる意見交換をさせていただいた。ここでの議論によって、政府主導とは異なる公立学校改善のオルタナティブ実践の理論化が研究課題であることが確認されその鍵を握る議論の一つに教師の専門性があることが確認された。 その他、日本における学校の「学習する組織」の研究に関わり、福井県の至民中学校(福井市)の校長と面会し今後の訪問調査の承諾をいただけた。平成25年度では至民中学校の学校の歩みについて事前学習を重ねている。また、前年度から訪問を続けている別学校の分析結果は既に論文化し成果公表の機会を探している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成25年度から本務校での教育業務はさらに増加しており、研究計画に示したエフォートの通りに研究時間を割くことは不可能な状態となっている。そのため研究に割ける時間は非常に限られてしまっているのだが、それでもなお基礎研究においては前年度からの研究成果の公表を行うことができ、継続すべき研究課題をより明確にさせることができている。比較研究領域においても、シカゴにおける調査研究で人的関係を築きながら予定どおりに研究を進捗させられている。さらに、新たにニューヨークでも人脈を築くことができ、現地研究者との研究交流の機会を今後拡大させていくこともできないかと期待もしており、研究計画の折り返しとしてはおおむね順調な進捗であると認識しているところである。
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今後の研究の推進方策 |
平成26年度では、基礎研究領域において継続収集している先行研究の検討を続け、平成25年度までで再構築を試みている「教育ガバナンス」の鍵的概念となる「学習」について理論的および実証的な研究を重ねていく。特に、米国の新自由主義教育改革の問題性を視野におきながら、それに対抗しうるオルタナティブの構築には教師の専門性にかかる議論を付加していく必要がある。基礎研究領域のウイングをもう少し広げ、残り2年の中で教育ガバナンスにおける「学習する組織」の理論的位置を解明し、その枠組みを持って組織構築と持続的発展に関わる実証研究をとりまとめる方針である。 その実証研究に向けて、日本およびアメリカにおける調査研究を前年度より計画通りに進めていく。既に調査協力に承諾を得ている学校には計画的な訪問観察と多様な関係者への面接調査を進めていく。シカゴは年度内に訪問できるのは(予算的にも時間的にも)一回だけであるため、現地の研究協力者と連絡を密に取り、調査先への事前質問などを行いながら、効率的な調査を進めていく。 それとともに残り2年の中でも、研究成果の公表を可能な限り進めていく。平成26年度では日本教育法学会で米国の首長主導型教育改革に係る報告を担当予定であり、日本教育経営学会やその他の学会においても成果公表の機会を探る予定である。また、成果の文章化と論文化を行い、学会誌への投稿だけではなく、社会的な研究成果の公表機会も作り出していく。
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次年度の研究費の使用計画 |
当初は米国調査における調査補助費や現地通信費を見込んで予算計画に計上していたが、現地で工夫することができたため、そちらの支出を抑えることができた。 平成25年度の米国調査では現地滞在に予想以上の滞在費がかかった。前前年度からの繰り越し分に加え他の費目で節約をすることで補うことが可能だったが、平成26年度においても同様の状況が予想されるため、生じた次年度使用額は旅費高騰への対応にまわす予定である。
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