研究課題/領域番号 |
24730666
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研究機関 | 聖徳大学 |
研究代表者 |
柴山 英樹 聖徳大学, 児童学部, 准教授 (60439007)
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キーワード | シュタイナー教育 / 言語教育思想 |
研究概要 |
本年度は、研究実施計画に基づき、イギリスとアメリカのシュタイナー学校における言語教育のカリキュラムについても検討を行った。そこで、神話や詩などの取り扱いに着目し、どのような題材を用いているのかを調査した。ドイツで広く用いられている北欧神話などの教材を、イギリスやアメリカでどのように扱っているのかを考察した。両国でも北欧神話が題材とされることが多い。しかし、イギリスにおいては、自国の文化に関連したものとして、ベオウルフなどを取り上げる場合も見受けられる。また、ホノルルのシュタイナー学校では、北欧神話だけでなく、ハワイの神話や伝説も扱われている。 また、詩などに関しては、イギリスの場合、オーエン・バーフィールドが高く評価したワーズワースやコールリッジなどのロマン主義の詩が扱われる。アメリカでは、ゲーテと同様に生き生きとした自然の変容を観照・表現したとして、エマーソンやソローの作品が扱われる。以上のように、イギリスやアメリカのシュタイナー教育では、シュタイナーがゲーテを通して捉えた詩的な想像力を、各国の詩人の中に見出そうとしているのである。 さらに、日本のシュタイナー学校調査への参照枠とするため、ホノルルワルドルフスクールにおいて、第二言語としての日本語の教育の実態を授業観察及びインタビューにより調査を行った。物語の読み聞かせや、歌やリズムを用いた音楽的な教育方法を用いることで、音声面の習得では高い効果を得ているといえる。その一方で、シュタイナー学校では、絵的に文字の習得をする教育方法が用いられることが多いが、漢字の細かな線的描写の違いを認識するためには、漢字の書き取りや書道などの線的表現を取り入れた活動が不可欠であると考えられる。 なお、本年度は、思春期のカリキュラムや指導法に関する研究成果の一部を活かし、「物語ること」を「哲学する」ためのしかけに関する報告を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の海外調査によって、本研究の目的である日本のシュタイナー学校における言語教育の実態を調査するために必要な視座を得ることができた。今回の調査では言語教育の実践の実態や北欧神話を扱うことの意義について把握することができた。またアメリカでは、超越主義の作品を重視する点が確認できたものの、その内実を明らかにするためには、思想的背景を検討する必要性が出てきた。この点は次年度の検討課題としたい。
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今後の研究の推進方策 |
まず、なぜゲルマン・北欧神話を探究するのだろうか。その点を明らかにしたい。シュタイナーによると、ロキが神々に依拠するのではなく、自由に行動する一方で、わがままやうそへの衝動に駆られるという人間の自我を象徴する存在とされる。このような観点に基づいて、シュタイナー学校では4年生の発達段階に適した教材として用いられているといえる。それでは、他の神話には北欧神話のような特徴を見出すことができるのだろうか。その点を考察していくことが課題である。 次に、アメリカの超越主義とシュタイナーが見出したゲーテ的な視点との共通性と差異について検討したい。 さらに、神話や詩の学習に際しては、内容の解釈のみならず、韻律などのリズムに着目するなどの指導法の実際についても考察を行っていく。 以上のような観点に基づいて、日本のシュタイナー学校における言語教育の実態調査を行う。ここでは、神話の取り扱いについて検討するだけなく、NPO法人東京賢治シュタイナー学校にみられる宮沢賢治の言語観の影響などを踏まえてその理念と実践を考察していく。また、日本語という表意文字を含む言語の読み書き教育の実際についても調査する予定である。 次年度は、これまでの研究成果を、全国大学国語教育学会等で成果報告を行うことにしたい。
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次年度の研究費の使用計画 |
アメリカ合衆国での海外調査をハワイ州のホノルルワルドルフスクールで実施したが、当初予定していた海外調査費がかからなかったため。 本年度の調査によって、今後の日本のシュタイナー学校を考察する際の重要な視座を得ることができたが、その一方でアメリカのシュタイナー学校における言語教育の内実を捉えるには、更なる調査が必要である。そのため、上記の費用は、アメリカの教員養成における学習内容や文献等を通じて、言語教材に関する思想的背景を調査する海外調査費に充てる。
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