本年度は、全国大学国語教育学会において、これまでの研究成果を踏まえたシュタイナー学校の言語教育のカリキュラムとその思想的背景に関する研究発表を行った(「言語教育のカリキュラムと思想的背景-ヴァルドルフ教育をてがかりとして-」)。そこでは、シュタイナーが神話や文学などをてがかりに、「意識の進化」を捉えている点に着目し、それらと言語教材の関連性について報告した。 本年度は、これまでの分析を踏まえて、後期中等教育段階の言語教材カリキュラムについて検討を行った。そこで用いられている言語教材に関しては、シュタイナーが講演等で示した独自の解釈があり、それらを参照した教材の位置付けがなされているといえる。また、思想的背景を踏まえ、カリキュラム全体を俯瞰することで、シュタイナーが古代の理想に戻ることを求めているのではなく、近代人特有の孤独や戸惑いを感じるにもかかわらず、自分の想像力を働かせながら、自分と他者や世界とのかかわりについて探究していかなければならないと捉えていた点を指摘することができた。 学校法人北海道シュタイナー学園及びひびきの村におけるインタビュー調査では、シュタイナーの言説や海外におけるカリキュラムなどを参照しつつも、教員自身が子どもの状況を観察し、日本の物語や詩などの教材を用いていた授業展開の試みが行われていた。 アメリカのルドルフ・シュタイナー・カレッジ及びサクラメント・ワルドルフ・スクールにおけるインタビュー調査では、シュタイナー教育の歴史的変遷やアメリカ独自の展開について確認することができ、エマソンなどの思想と関連させながら、シュタイナーの思想を捉えたり、アメリカの文学作品を「意識の進化」や「発達課題」などの観点から解釈したりするなど自国の文化に合わせた言語教材のカリキュラム編成を試みていることが明らかとなった。
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