研究課題/領域番号 |
24730672
|
研究種目 |
若手研究(B)
|
研究機関 | 鎌倉女子大学 |
研究代表者 |
藤井 佳世 鎌倉女子大学, 教育学部, 講師 (50454153)
|
研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
|
キーワード | 自己形成 / ハーバーマス / ホネット / 社会化 / 教育学 |
研究概要 |
ハーバーマスとホネットの自己概念は、ミードの社会心理学をどのように読むか、精神分析をどのように捉えるかによって異なる。ハーバーマスが重視するのは、討議可能な主体である。討議可能な主体に求められるのは、目の前にある生活形態から一定の距離をとる普遍的役割交換である。この普遍的役割交換という考えは、ミードの社会心理学における理想的役割取得の概念が下敷きとなっている。すなわち、ハーバーマスは言葉によって示される要求を理解することによって、いいかえれば、認知的次元を拡大することによって、第三者の視点を獲得し、最終的にあらゆるすべての人の視点をとるような自律した主体へ至ると捉えている。 こうしたハーバーマスのとらえ方に対して、ホネットは、言語理解は他者からの承認に結びつくと捉え、情緒的な次元を含みいれた主体の在りようを提案している。ホネットにとって、自律とは心的なグレードに関する問題であり、言語によって汲み尽くすことのできないアイデンティティの可能性が多様にあることが重要となる。こうしたアイデンティティ概念には、認知心理学ではなく精神分析からの影響をみることができる。 ホネットの捉える自律した主体とは、行為の衝動を不安なく分節化し、生の語りを関連づけ、道徳的コンテクストを感受する主体である。自律した主体の前提には、自己が自己を価値あるものとして感じとることが必要である。そのため、他者による承認という承認論が主体のありようの下敷きになる。ホネットにとって、感情や願望という情緒的次元は、即座に言語化できるものではなく、主体が確実に知っているわけではない。したがって、自律した主体であるためには、単なる認知能力以上のもの、すなわち感情移入能力が必要である。ホネットからみれば、理想的役割取得は、こうした次元を含む。情緒的次元を含みいれた主体は、構成される可能性を常に潜在的に秘めた主体といえる。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ミードの社会心理学との関連から自己のありようを明らかにすることに関しては、ハーバーマスとホネットの相違点が明確に見出された。そのことにより、自己概念の違いがおおむね示された。 研究過程において、汲みつくせないアイデンティティの可能性がどのように自己形成につながるか、そのプロセスについては、承認論だけで十分ではない点があることが示された。そのため、自己を形成するという視点からのアプローチも重要であることが新たな課題として提示された。 自己形成の思想的背景についてはいまだ十分に解明されていないため、今後の課題である。
|
今後の研究の推進方策 |
平成24年度の研究成果をふまえた自己概念とドイツ教育学におけるミード解釈とを比較し、自己形成をめぐるドイツにおける相互主観性論とアメリカのプラグマティズムとの連続性と非連続性を明確にする方向で進めていく予定である。その際、ヨアスのテキスト解読が重要になると思われる。また、自己形成の思想的背景についての解明を進めていく必要がある。
|
次年度の研究費の使用計画 |
平成25年度より所属機関の変更にともない、研究上必要な書籍等が十分な状態ではないため、それらを新たに購入する必要がある。そのため、当初の予定より多くの書籍等の購入を行う予定である。また、専門的な意見交換、十分な資料収集を適宜おこなう予定である。
|