本研究では、乳幼児期における道徳教育を乳幼児期の発達課題と位置づけ、乳幼児期の道徳性の発達に即した幼児教育・保育のカリキュラムや指導方法のプログラム開発を保育現場と協働で行うことを目的としている。そのために、研究期間において、まず乳幼児期の道徳的認知発達に関わる諸要素を明らかにすることを目的とした。また、道徳性は所属する文化や社会の影響を受けると考えられるため、諸外国での道徳性育成に関する取り組みと我が国の教育・保育の比較を行い、道徳性育成の方法についての示唆を得ることとした。 幼児期の道徳的認知発達に関わる諸要素を明らかにするために、1歳から5歳までの積み木遊びにおける遊びの発達と他者との関わりについて、縦断的・横断的な調査を実施した。その結果、1~2歳児では見立て遊びの前に真似遊び(模倣遊び)があり、真似遊びができるかどうかが他者関係をうまく築けるかどうかに関係することが示唆された。また、他者の積み木を壊す子どものうち、積み木でうまく遊べない場合があることが分かった。これらのことは、子どもの道徳性が子どもの認識能力や身体能力の発達と密接な関連があることを示している。したがって、乳幼児期の道徳性育成においては、道徳的な事柄だけでなく、認識能力や身体能力の発達との関連を考慮する必要があると考えられる。 また、イギリス・オーストラリアの幼児教育・保育との比較から、それらの国においては多民族・多宗教を背景とするため、相互理解や多様性の理解、寛容を重視した子どもの主体性を中心とした教育・保育が実践されているのに対し、我が国は同質性の保証を平等と捉える考え方から一斉保育などの教育方法が採られていると考えられる。一方で我が国で以前から実践されている話し合い活動の実践は社会道徳的雰囲気を作ることに非常に有効であることが示唆された。
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