本研究は、子どもの権利尊重に基づく教育実践を遂行するための、研修プログラムを作成することを目的として行った。本研究で言う子どもの権利尊重とは、J.コルチャックの子どもの権利思想に基づくもので、子どもであるがゆえに尊重されえない「子どもの人間としての権利」である。本研究ではコルチャックの思想に基づく実践として高い評価が報告されたイスラエルのアヴィハイル・スクールにおいて、その実践を調査し、今日の子どもの権利尊重実践のための研修プログラムを作成した。 子どもの権利尊重実践のためのポイントは、①子どもの権利をいかに具体化するかを、教育実践の場において明確に共有することである。コルチャックの権利思想が示す「子どもの権利」の理念を教師が統一された権利観として共通理解することである。②共有された権利観を実行するための方法を、それぞれの教育現場の子どもの実態に即した具体的な方法として編み出すことである。本研究から得られた子どもの権利を尊重する最も基本的な実践方針とは子どもとの「対話」である。 研修プログラムは、大きく次の3段階で構成した。第1段階として、個々の大人の子どもの権利観を醸成すること。特に「権利」を「義務」との対立概念としてではなく、責任ある市民に成長するための教育環境のもとで育てられることへの権利として権利観を構成することに主眼を置く。第2段階は、教師間の「権利観」を共有することと、教育の方向性を共有すること、「価値観の共有」である。第3段階は、理念の具体化のためのアイデアの産出である。この段階において、教師間の協働作業が重要であり、多くのアイデアを出し合う「教師間の対話力の形成」が重要となる。以上の段階による研修が、既成の権利実践方法によるのではなく、各現場の子どもの実態に即した実践を行う一助となることが期待される。今後は、この研修を臨床的に研修していくことが課題である。
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